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【新興ASIAウォッチ/第125回】ベトナムに投資すべき3つの理由

2024年もっとも注目されるベトナム経済

2024年が明けて、世界の投資家の視線は東南アジア諸国の中ではベトナムに集中している。ベトナム経済は2022年に15年ぶりのGDP高成長を記録したが、2023年は通年で5.05%とやや減速し、政府目標の6.5%を下回った。しかし、昨秋からはすべての経済指標が好転し、今年は政府目標の6.0~6.5%以上の高成長が達成されると見られている。

たしかにこの数ヵ月、ベトナムの株価(VN指数)、不動産価格、対外直接投資、製造業指数などの数値は、軒並み伸びている。その結果、2023年の第4四半期のGDP成長率は、部門別で製造業が前年同期比7.97%増、建設業が同9.32%増、商業が同9.88%増、運輸が同9.97%増、ホテル・レストランが同8.85%増と大きく伸長した。

ベトナム政府は、この経済成長を維持するため、昨年11月末にすでに決まっていた付加価値税(VAT)税率の引き下げ(10%から8%へ2%ポイント引き下げ)期限を、2023年末から2024年6月末まで半年延長することを決定した。

というわけで、今回は、ベトナム経済の好調ぶりに関して、3つのポイントを指摘してみたい。

中国から電子関連製造業が次々に移転

1つ目のポイントは、アメリカ中心に進む「中国デカップリング」(中国切り離し)が、ベトナムの経済成長の追い風になっていることだ。トランプ前政権以降、アメリカは中国をサプライチェーンから切り離し、中国からの輸入を減らしてきた。その代わりに増えたのが、東南アジアでは圧倒的にベトナムなのである。日本もこの流れに便乗し、ベトナム投資を増やし続けてきた。

アメリカや日本がベトナムから輸入するのは、かつては衣料、繊維製品などが中心だったが、近年は電子機器、機械部品などが飛躍的に伸びている。これまで中国にあった製造業が、次々にベトナムに移転したためだ。

ベトナムの経済成長は輸出に大きく依存しているが、ここ数年でその輸出の3割を占めるまでになったのが、電子機器関連(コンピュータ電子機器、スマートフォン、関連部品)である。

中国デカップリングはまさに“漁夫の利”

首都ハノイがあるベトナム北部は、いまや電子産業の一大生産拠点になっている。すでに韓国のLGグループやサムスングループが大規模な生産拠点を置いているが、この2社とも2024年以降さらなる投資を決めている。米アップルが生産拠点を中国からベトナムに移す動きも加速している。

コロナ禍前から始まったこの動きにより、台湾のフォックスコン(富士康)は、iPadとMacの生産施設をバクザン省に建設し、すでに稼働させている。台湾のペガトロンもベトナムに進出した。こうした流れに中国企業も乗り、ラックスシェア、ゴアテックがベトナム投資を強化せている。

中国への投資リスクを回避するという観点から、新興アジア諸国に第2の拠点を設けるということで始まった「チャイナプラスワン」だが、 「中国デカップリング」になったため、いまや、中国企業までどんどんベトナムに進出しているのだ。これは、ベトナムにとって、まさに“漁夫の利”というほかない。

いずれ「世界の工場」になる可能性大

外資によるベトナムへの投資は、毎年、拡大を続けてきた。ベトナム計画投資省の統計によると、製造業の分野でのベトナムへの直接投資(認可ベース)は2020年以降、コロナ禍で件数は一時的に落ち込んだものの、投資額では増え続けている。とくに2022年、2023年は大きく増加しており、今後、外資による工場建設や増設が続くのは間違いない状況になっている。

この外資の投資の多くの部分を占めているのが、なんと中国企業である。海外からベトナムへの月次直接投資を見ると、中国からの増加が顕著で、これまでベトナムに積極的に進出してきた韓国を追い抜く勢いになっている。もちろん、日本企業もベトナムに進出、積極的に投資をしている。しかし、その規模は中韓には及ばない。それは、日本の産業構造が変わり、製造業中心ではなくなったからだろう。

いまのベトナムは、かつて中国が「世界の工場」と呼ばれて、各国の製造業が工場を建設し、安価な労働力を使って大量生産をしたときとそっくりになっている。このままいけば、ベトナムが日本、中国に続いて「世界の工場」になるだろう。

アメリカがベトナムを市場経済国と認定

ベトナムの今後の経済発展を考えるうえでの2番目のポイントは、ベトナムがアメリカによって「市場経済国」(NME:Market Economy Countries)に認定されたことだろう。

昨年9月、ベトナムを訪問したバイデン大統領との会談で、ファム・ミン・チン首相はこのことを強く要請し、バイデン大統領がこの要請を受け入れたのである。これにより、ベトナムはアメリカの「包括的戦略パートナーシップ」(Comprehensive Strategic Partnership)国に格上げされ、両国間の経済・貿易・投資はいっそう強化されることになった。

市場経済国というのはもちろん、市場経済(market economy)の原則によって経済活動が行われている国のことで、具体的に言うとモノとサービスの価格および賃金は供給と需要によって決まり、政府の介入は最小限に留まる経済を持った国のことである。

その定義は各国で異なるが、一応WTO(世界貿易機関)の認定が最優先で、国別では世界最大規模の自由主義市場経済を持つ世界覇権国のアメリカ、先進欧州各国などからの認定が欠かせない。なぜなら、認定されない国、すなわち「非市場経済国」(NMEC:Non-Market Economy Countries)には、アンチ・ダンピング税が課せられたり、相殺関税の税率を高く設定されたりすることが起こるからだ。

中国はいまも市場経済国として認定されず

ベトナムはこれまで世界70ヵ国以上から市場経済国と認められてきた。しかし、アメリカは、中国とほぼ同じ体制をとるベトナムの経済を市場経済とは認めなかった。

アメリカ商務省のHPには、非市場経済国(NMEC)のリストが載っており、そこにはこれまでアルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、中国、ジョージア、キルギス、モルドバ、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、ベトナムの名前があった。それが、今年からベトナムの名前が消えた。

ちなみに中国は、2001年にWTO加盟した際に非市場経済国として扱われることを受け入れたが、この規定は加盟から15年後の2016年12月11日に失効し、自動的に市場経済国になることになっていた。しかし、アメリカは「市場経済への移行が完了していないのは極めて明白」と猛反対し、移行は実現しなかった。その結果、中国はいまも非市場経済国となっている。また、ロシアはウクライナ戦争を起こしたこともあり、2022年11月に、市場経済国の認定を取り消された。

ベトナム主要企業の株価は軒並み上昇

世界から市場経済国と認められることは投資の拡大を招くので、経済成長にとって欠かせない。よって、市場経済国となったベトナムへの海外直接投資は今後ますます増える。これまでベトナムは、2006年にWTOに加盟以来、世界各国とFTA(自由貿易協定)を締結してきた。日本もベトナムとの間に「日本ベトナム経済連携協定」を結んでいる。日本の貿易相手としてのベトナムは、いまでは、中国、韓国、アメリカに次いで第4位である。

市場経済が行き届く国では、多くの民間企業が発展する。ひと昔前までは、ベトナム企業の名前は世界にほとんど知られていなかった。それがいまでは、何社か世界に知られる企業出てきている。

例えば、ベトナム一の財閥とされる複合企業「ビン・グループ」(Vin Group)、不動産の「サングループ」(Sun Group)、格安航空の「ベトジェットエア」 (Vietjet Air)、鉄鋼の「ホア・ファット・グループ」(Hoa Phat Group JSC)、電子機器の「モバイル・ワールド・インベストメント」(Mobile World Investment Corporation)、食品加工の「マサン・グループ」(Masan Group Corp)などだ。 これらの会社の株価は、いずれも値上がりしている。

平均年齢31歳、先端教育人材が豊富

ベトナムの経済の先行きを考えるうえで、3番目のポイントは人口が圧倒的に若いことである。現在、ベトナムの人口は約9,946万人(2022年)で、6億人という巨大市場であるASEANの中では3番目に人口が多い国となっている。そして、この人口の最大の特徴が、平均年齢が31歳と、日本の41.7歳に比べたら圧倒的に若いことだ。つまり、働く人口(生産年齢人口)が豊富にあり、その消費力は旺盛で、今後の経済成長は約束されているのだ。

ただ、生産年齢人口が豊富なこと以上に重要なのが、教育である。ベトナム政府は教育のレベルアップに力を入れ、義務教育を10年間に伸ばすとともに、「STEM教育」(Science, Technology, Engineering and Mathematics)を積極的に進めている。その結果、現代のIT世界にふさわしい人材が育っていて、ベトナムの学生は日本の学生よりITリテラシーが高い。つまり、将来の有用な人材が豊富だということだ。

インフラ整備、残業なしの企業環境

どこの国でもそうだが、今後の経済発展はITインフラが整い、IT人材が豊富なことで決まる。そういうところから、次の時代をつくるスタートアップが育つからだ。その意味では、いまベトナムは最適な環境と言える。

なにしろ、社会主義国のため政府が最先端のITインフラをつくっているからだ。スマホの電話・通信料金は格安で、カフェやレストランの電源とWi-Fiは使い放題。都市部では、テレワークですべてが完結できる環境が整っている。

そしてもう一つ、人口が若いことで仕事のやり方が効率的だ。ベトナム企業では、残業がほとんどない。有給もほとんど使い切る。また、フランス植民地時代の名残りか、南国のせいか、昼のランチタイム休息には昼寝も行われている。つまり、日本のようにわざわざ「働き方改革」などする必要などない、ライフワークバランスの環境が整っている。

ベトナム経済の未来は、限りなく明るいと言えるだろう。

新興ASIAウォッチ/著者:山田順

新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。

山田順(やまだ じゅん)

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。

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投稿更新日:2024年01月29日


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