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【新興ASIAウォッチ/第97回】いつになったら行ける?コロナとの長期共存が始まった新興アジア圏

現地を見られないまま約2年が経過

コロナ禍が始まってから2年近くが経とうとしているのに、いまだに収束の兆しすら見えない。そのため、私は日本を一歩も出ていない。というか、出られないでいる。このコラム「新興ASIAウオッチ」を含め、主に国際関係・経済の記事を書きながら、その実態を取材し、この目で確かめられなくなっている。

もちろん、関係者に話を聞くぐらいの取材ならオンラインでもなんとかなる。しかし、「百聞は一見に如かず」で、現地を訪れないことには本当の姿はわからない。

はたして、いつになったら、新興アジア圏の国々に自由に行けるようになるのだろうか? そしてなによりも、今後コロナ禍はどうなるのだろうか?
今回は、この見地から、新興アジア圏の今後を展望してみたい。

いまだにどの国も「鎖国」状態にある

ついこの間まで、ワクチン接種が進めば世界は元に戻ると考えられてきた。これまで新興アジア圏の国々では、ワクチン接種がなかなか進まなかった。しかし、それでも接種が進み、「集団免疫」が達成されれば元に戻ると考えられてきた。

しかし、それは甘い見方だった。いまではワクチン接種が進んだ国ほど、感染が再拡大してしまっている。ワクチン接種の先進国とされたイスラエル、英国、アメリカなどは、いったんは収まった感染拡大が再び拡大している。日本もまた、7月から記録的な感染拡大(第5波)に見舞われてしまった。

これは、新興アジア圏の国々でもまったく同じだ。そのため、いっとき入国規制が緩和された国もあったが、現時点(2021年9月第1週)では、どの国も「鎖国」状態にある。とくに日本人は、特別な理由と条件を満たさない限り、入国できなくなっている。

日本人は疎い点があるので述べておきたいが、入国規制はほとんどの場合、相手国の問題ではなく、日本側の問題である。つまり、日本がコロナ禍を収束させない限り、私たち日本人はどこの国でも受け入れてはくれないのだ。

ASEAN各国の入国規制の現状

では、以下で新興アジア圏(ASEAN)諸国の状況を順番に見ていこう(2021年9月第1週現在)。

[シンガポール]
シンガポールでは7月以降、再び感染拡大が始まり、8月最終週になっても収束の気配がない。しかし、政府は8月20日から、入国規制の段階的な解除に踏み切った。各国・地域の感染とワクチン接種状況に応じて、4段階でのカテゴリー(1〜4)における措置を緩和した。

カテゴリー1では、入国時のPCR検査が陰性なら自由に入国が可能になった。該当するのは、中国(江蘇省を除く)、ニュージーランド、香港、マカオ。カテゴリー2では、PCR検査に加え、入国後7日間の隔離義務が課せられる。カテゴリー3では、ワクチン未接種者の場合、これまで通り政府指定のホテル(施設)で14日間の隔離義務が課せられるが、接種完了者の場合は、接種後2週間が経過していれば自己指定ホテルまたは自宅隔離が認められた。日本は、カテゴリー3である。

つまり、日本人はいわゆるワクチンパスポート (ワクチン接種証明書)があれば、入国後、自分で選んだホテルで過ごすことができる。もちろん、この間、自由行動は厳禁だ。シンガポールでは政府が行動規制を実施しており、日本と違って破れば罰金、罰則が科せられる。外国人の場合はとくに厳しく、ビザ剥奪、即時国外退去もある。自己隔離が明けても、施設入場、店内飲食にはワクチン接種証明が必要だ。また、政府指定のアプリによる管理も行われている。

[タイ]
8月最終週での1日当たりの新規感染者は1万8000人ほどで、日本と同じ状況が続いている。そのため、現在発令されている「非常事態宣言」は9月末日まで延長される。ただし、9月1日からは、地域により一部解除されることになった。ショッピングモール、サロン、理髪店、マッサージ店、ジム、スポーツの競技場などの営業の再開が認められ、レストランでの店内飲食も可能になった。しかし、ワクチン接種証明書か陰性証明書の提示が必要だ。

入国に関しては、政府が認めたビザ拾得者以外は入国できない。ビザはオンラインで申請し、入国許可書の登録、追跡アプリのダウンロード、PCR検査陰性証明書が必要で、入国後は政府指定の施設で14日間の自己隔離(自己負担)義務がある。ただし、ワクチン接種の証明があれば、隔離期間が7日間に短縮される。なお、例外として、プーケットやサムイなどの観光地では、ワクチン接種者に限り、自己隔離の免除措置がある。 

[ベトナム]
ベトナムも1日の新規感染者が1万人を超える感染拡大が続いている。そのため、ロックダウンは厳格化され、一部地域では完全封鎖が行われている。すでに、日本企業の関係者は多くが引き揚げたが、いまや、日本の方が感染状況は厳しくなっている。

そのため、ベトナムに入国するには、事前申請して一時滞在許可証またはビザを拾得する必要がある。入国3日前までにPCR検査を行って陰性証明書を取得し、オンラインでの医療申告をしなければならない。入国後は14日間の集中隔離と、その後14日間の自宅での健康観察を受ける。また、隔離期間中は所定の回数のPCR検査を受ける。ただし、ワクチン接種証明があれば、隔離期間がそれぞれ7日間に短縮される措置が暫定的に運用されている。

[インドネシア]
インドネシアの1日当たりの新規感染者数は一時4万人を超えたが、8月からは漸減し、現在、ピークアウトの状況を見せ始めている。そのため、活動制限は段階的に解除されている。しかし、入国規制に関しては依然として厳しく、保健省は8月24日に、一部の例外を除く外国人の入国停止措置を継続すると発表した。そのため、観光目的の入国はできず、入国には保証人を立ててのビザ申請が必要だ。

もちろん、ワクチン接種証明が必要だが、未接種の場合は入国後2回目のPCR検査で陰性が確認された後に、隔離施設において1回目のワクチン接種を受けなければならい。ただし、これは例外的措置で、現在、ワクチン接種完了者以外はほぼ入国は不可能で、入国後も指定施設での14日間の自己隔離が義務付けられている。

[マレーシア]
感染拡大が止まらず、8月最終週で1日当たりの新規感染数は2万人を超えている。そのため、政府は「活動制限令」(EMCO)を継続中だ。当然ながら、外国人の入国は原則禁止。ビジネストラックや政府関係などの例外者の場合は、ワクチン未接種なら到着後のPCR検査と、政府指定の施設での14日間の強制隔離が義務付けられている。接種者の場合は、自主隔離が認められる。

[フィリピン]
感染拡大は依然として続いており、8月最終週の1日当たりの新規感染数は1万8000人ほど。ASEAN諸国では、最悪の感染レベルにある。そのため、マニラ首都圏ではロックダウンが続いている。ただし、政府は8月13日から、ワクチン接種者に対しては入国規制措置の緩和に踏み切った。その際、「低リスク」に指定された国・地域は36ヵ国で、ここからの入国者に対しては、入国後の強制隔離措置期間が10日間から7日間に短縮された。しかし、日本は「低リスク」国ではなく、現状では強制隔離を覚悟しない限り入国は困難だ。

[その他のASEAN諸国]
ラオス、ミャンマーは外国人の入国を禁止している。ミャンマーはビザの発行も停止している。カンボジアでは、入国に際してビザのほか、陰性証明書、2000米ドルのデポジット、地場の保険会社「フォルテ・インシュアランス」の保険証書が必要だ。

やはりモノを言うのはワクチン接種証明書

以上をまとめると、いまのところASEAN諸国にかつてのように行くことは無理である。それでも行く、行かなければならないとしたら、ワクチン接種は必至だ。現在、世界的に「ワクチンパスポート」の導入が進んでいるが、新興アジア圏も同じだからだ。ところが、日本だけが導入が進んでいない。本当に、どうなっているのだろうか?

ワクチンパスポートは、コロナ禍のあとの世界を考えると非常に重要である。なぜなら、これがないと自由に行動できず、コロナ禍のあとの世界が「コロナとの共存社会」なら、必需品になるからだ。

現在の世界の感染状況を見ていくと、「コロナゼロ」は不可能と思える。かつて、ロックダウンによってそれに成功としたとされた台湾、ニュージーランドなどは、デルタ株の登場後にことごとく失敗している。頼みの綱とされたワクチンによっても、「コロナゼロ」を達成できないことがわかってきた。デルタ株はワクチン接種者にも「ブレイクスルー感染」を引き起こすからだ。

こうした状況を踏まえ、アメリカ、欧州諸国はいま、コロナとの共存を仕方ないものと考え、感染をいかにコントロールするかという施策に転じている。新興アジア圏諸国も同じで、シンガポールやタイなどで、感染拡大が収束しなくとも入国規制を一部緩和したのは、この方向しかないからだろう。つまり、今後世界は、コロナとの「長期共存の時代」に入っていくと考えられる。

なぜインドは感染爆発が収まったのか?

コロナとの長期共存の時代になると確信させられるのが、デルタ株の発生源とされるインドの動向だ。インドでは今年の4月から5月にかけて、コロナの感染爆発が起こった。ピーク時には1日当たり41万4000人の新規感染者が確認され、死者は4000人以上に上った。デリー首都圏では、ピーク時に1日2万6000人を超える新規感染者が確認された。ところが、いまや数十人に激減した。デリー首都圏の人口は約1680万人で、約1430万人の東京をやや上回るが、1日5000人を超えた東京と比較するとこの数は圧倒的に少ない。

いったいなぜ、インドではパンデミックが収束に向かったのだろうか?ワクチン接種率が国民の1割にも達していないのに、なぜ感染はピークアウトしたのだろうか?
考えられる原因は、次の2点だ。

(1)イベルメクチンの効果
(2)自然免疫の獲得

イベルメクチンは、ノーベル医学・生理学賞を受賞した北里大学の大村智特別栄誉教授の研究をもとに開発された飲み薬。寄生虫によって失明やリンパ管の腫れが引き起こされる病気の特効薬として、アフリカ諸国を中心に世界中で使われてきた。それが、コロナの初期症状患者に効果があるとわかり、一部で試されてきた。

これに、インド政府は半ばギャンブルで乗っかり、4月20日からイベルメクチンの大量投与に踏み切ったのである。このことが功を奏したのかどうかは確かめることはできないが、その後、みるみる感染者数が減ったのは事実だ。

インドばかりではない、ブラジルやメキシコなどでも、イベルメクチンの初期投与により発症者の重症化防止に成功し、感染者数は減少に転じた。

インド人の多くが気づかずに感染していた

インドの感染爆発が止まった原因とされる(2)の「自然免疫の獲得」は、大規模な検査の結果から推定される。インドでは、抗体を検出する血清検査を6月から7月にかけて行い、子供を含め約2万9000人のサンプルを解析した。その結果、インドの人口の3分の2が新型コロナウイルスに対する抗体を持っていることがわかった。つまり、多くのインド人がコロナに感染したが、発症しなかったので感染に気がつかなかったのである。

大人の場合、調査者の62%がワクチン接種を受けていないなかで、67.6%が血清陽性だった。この調査時点で、インドのワクチン接種者は全人口の約8%に過ぎなかったから、免疫の獲得は自然感染だったとしか考えられない。インドでは感染爆発により、社会全体が集団免疫を獲得するに至ったと言えるだろう。

ウイルスは世界から消えず共存する

最近の報道では、ファイザーのワクチン接種で得られた中和抗体は、3ヵ月で4分の1に減るという。しかし、自然感染で獲得した抗体の場合はそこまで減らず、かなり長い期間持続するとされる。昨年春にNYでコロナ感染した私の知人は、3ヵ月ごとに抗体検査をしているが、1年たったいまも抗体を維持している。

となるとこの先は、ワクチンを何度も打ち続けて免疫を維持する人間と、感染で自然免疫を獲得した人間が共存し、コロナと共生する世界になる。そうして、ほとんどの人間が免疫を獲得した時点で、感染は収束する。ただし、新型コロナウイルスが世界から消えるわけではなく、また新しい変異株も現れるだろう。

すでにイスラエルは3回目を打ち始めた。英国も9月から始めた。アメリカは9月20日からスタートする。いずれ、日本も始めることになり、新興アジア圏諸国でも来年には行われるだろう。こうして、世界はコロナと長期共存の世界となり、出入国規制も緩和されていくに違いない。

以上を踏まえて、私たちがASEAN諸国と自由に行き来できるようになるには、まだ時間がかかる。少なくとも年内は無理だろうと、いま私は思っている。

新興ASIAウォッチ/著者:山田順

新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。

山田順(やまだ じゅん)

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。

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投稿更新日:2021年08月31日


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