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■ベトナム人シェフと一緒にベトナム料理をつくる
毎回、マクロ経済、現地経済、政治状況などを取材して新興アジア圏を歩いていると、アタマが固くなる。そこで、娘(と言ってももう30歳を超えているが)のアドバイスに従い、家内と3人で、ホーチミンの料理教室「サイゴン・クッキングクラス」に入ってみた。料理教室といっても観光客向けで、ベトナム人シェフと一緒にベトナム料理をつくって、それを食べるという企画ツアー。主催はホーチミンでも有名なベトナム料理レストラン「ホアトゥック(Hoa Tuc)」。
ハイバーチュン通りのパークハイアットホテルの横にある小路を奥に入ると、コロニアル風の建物があり、1階2階がレストランになっている。この建物はフランス領だった当時はアヘン工場だったというだけに、由緒深い。入り口を入り2階に上がると、すでに参加者全員が長テーブルの席について、私たち3人を待っていた。シェフは笑顔で、「これで全員が揃いました。では始めましょう」と、さっそくメニューの説明に入った。
■「生春巻」「和え物サラダ」「ベトナムチャーハン」の3品
テーブルを見渡すと、日本人は私たちだけ。隣は香港から来た20代のカップル2組、その向こうはアメリカ人の3人家族、さらにオーストラリア人の老カップル、フランス人の3人家族、ドイツ人の中年夫婦といった具合。いずれも、興味津々の顔つきでシェフの説明を聞いている。隣の香港カップルに聞くと、シェフに連れられて全員でベンタイン市場に行き、料理用の食材を買ってきたという。
つまり、私たちは途中参加ということを、ここで私は初めて知った。横で娘がこう言った。「だって朝は苦手でしょう。食材の買い物は朝8時集合なので、それをスキップして料理教室から参加することにしたの」
シェフの説明では、これから3品、ベトナムの代表的な料理をつくり、その場で食べるという。全部、地元の食材で、化学調味料はいっさい使わず、使うのはベトナムの調味料のみ。つくるのは、ベトナム料理と言えばまず名前が挙がる「生春巻」、続いて現地の野菜を豊富に使いそれに鶏肉を加えた「和え物サラダ」、最後は主菜の「蓮の葉に盛ったベトナムチャーハン」。隣のテーブルには、すでに各人ごとに食材と包丁、フライパンなどが用意されていた。
■観光客向けの料理教室はアジア中で大人気
ところで、このような観光客向けの料理教室は、いまや世界中で大ブームとなっている。最近は日本でも、京都や東京で外国人観光客向けの日本料理教室が開かれているが、アジア各地ではすでに定着している。シンガポールには、アジア各国の料理教室があり、どこも観光客で賑わっているが、中でも人気はハイナンチキンライス(海南鶏飯)やワンタンスープなどのシンガポールメニューを教えてくれるクラスだ。トリップアドバイザーを検索すれば、人気の料理教室と体験談がいっぱい載っている。
バンコクでも料理教室は人気だ。トリップアドバイザーで1位を獲得しているのは「シェフ リーズ(Chef Leez)。本格的なタイ料理を教えてくれる。また、マレーシアのクアラルンプールでも、観光客にマレー料理を体験させてくれるクラスがどこも人気だ。マレーシア料理の特徴は、ココナッツやチリなどの香辛料をふんだんに使ったスパイシーな味わい。ただ、私は香辛料が強いのはやや苦手だから、ベトナム料理の方が口に合う。
■ベトナム料理が辛口だというのは誤解
というわけで、最初のメニュー「ベトナム生春巻き」に挑戦。シェフの説明を聞き、その指示にしたがって、中身になる野菜や生えびを包丁で切り、それをバインチャン(お米からつくった半透明の皮)で巻く。この巻き方にコツがある。そうしながら、ヌクチャム(タレ)もつくる。このタレは、ベトナム醤油やピーナッツペースト、ライムなどを混ぜてつくる。
ベトナム料理と言えば、香草類をふんだんに使うが、なぜか香菜(パクチー)がない。聞くと、「ふつう、春巻きにはパクチーは入れません」とのこと。日本の生春巻きは必ずと言っていいほどパクチーが入っているが、それは邪道のようだ。見よう見まねで奮戦し、やっとそれらしい春巻きが出来上がった。すると、シェフが来て「グッドジョブ」と褒めてくれる。その一言に満足し、隣のテーブルに戻り、自分のつくったものを食べる。このときが一番楽しい。娘も家内も、そしてほかの参加者もみな笑顔だ。
ドイツ人中年夫婦はベトナム料理がほとんど初めてだったようで、「このタレは思ったほどスパイシーでない(辛くない)。なぜですか?」と聞いていた。するとシェフは、「ベトナムでは、辛いのが好きな女性は男性にもてません。性格がキツイといわれるからです」と答えた。このシェフはユーモアもあって、場は弾んだ。
新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。
投稿更新日:2016年01月25日
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