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【新興ASIAウォッチ/第122回】「丸亀製麺」はなぜインドネシアで成功したのか?

10年余で100店という大台を達成

この10月14日、インドネシアの首都ジャカルタ郊外の西ジャワ州ブカシにある商業エリア「グランド・コタ・ビンタン」で、「丸亀製麺」のインドネシア100号店がオープンした。オープンを記念して行われたトークイベントでは、「丸亀製麺」を展開するトリドール・ホールディングスのCEO粟田貴也氏が挨拶し、続いて現地法人のCEO近藤肇氏が次のように抱負を語った。

「今後は進出していない(インドネシアの)島にも店を出していきたい」

「丸亀製麺」がインドネシア1号店を開設したのは、2013年のこと。それから10年余りで100店舗という大台を達成したことになる。現在、「丸亀製麺」は、台湾、ベトナム、フィリピンなどアジア諸国を中心に244の海外店舗を展開しているが、その中でインドネシアの店舗数は飛び抜けて多い。 当初は「インドネシア人に日本のうどんは好まれない」と反対されたというが、いまでは現地で大人気のファストフードチェーンとなった。

なぜ、「丸亀製麺」はインドネシアでここまで成功できたのだろうか?

日本とはまったく違う人気メニュー

インドネシアの「丸亀製麺」に行って驚くのは、メニューのラインアップが日本とは違うことだ。「えっ!これが丸亀うどんか?」というメニューがいくつもある。もちろん、イスラム国だけに「ハラール認証」がされているが、その制約の中でメニューはバラエティに飛んでいる。

もちろん、「丸亀製麺」だけに基本は「かけうどん」だが、人気のうどんは一番が「肉(牛)うどん」だという。これに「ビーフカレーうどん」、「チキンカツカレーうどん」が続く。さらに、日本にはない「シーフード・トマトうどん」、「ビーフカルボナーラうどん」などが人気だ。日本なら定番の「きつねうどん」はない。

サイドメニューも、日本とはかなり違う。天ぷらでは、日本同様、海老天が断然の1位人気だが、2位はチリパウダーをまぶしたインドネシア独自ののり天である。さらに、日本にはないプリンなどのデザートも置いてある。

現地在住の日本人によると、「もともとインドネシアには麺文化があったので、日本のうどんに違和感はなかったと思います。それに、現地の人間の好みに合わせたメニューがあるので人気なんです。ビーフカレーうどんは、美味しいですね」とのこと。

海外のフードチェーンを次々と買収

「丸亀製麺」を展開するトリドール・ホールディングスは、「丸亀製麺」の海外ブランド「Marugame Udon」のほかに、米線(ミーシェン:米を使った麺類)を使ったスパイスヌードル「譚仔三哥」(タムジャイサンコー)「譚仔雲南」(タムジャイユンナン)、日本式カレーショップ「Monster Curry」(モンスターカレー)、アジアンファーストフード「Wok to Walk」(ウォク・トゥー・ウォーク)など、様々な業態を海外で展開している。

その店舗数は現在、世界で約700店舗。「日本発のグローバルフードカンパニー」を目指すという粟田貴也CEOの構想は、5年後の2028年に合計で4,000店舗を達成するという壮大なものだ。

このように、トリドール・ホールディングスの海外展開は、「丸亀製麺」だけにこだわらないのが特徴だ。「モンスターカレー」はシンガポール発の日本式カレーショップで、「丸亀製麺」のインドネシア100号店オープンの1週間後、インドネシア1号店をオープンさせている。

「ウォク・トゥー・ウォーク」は、オランダ発の外食チェーンで、店内でタイなどのアジア料理を調理し、ストリートフードのように出すことが受けていた点に目をつけて2015年に買収し、現在は欧州を中心に世界で100店舗以上を展開している。

トリドール・ホールディングスの海外外食ビジネス買収熱は旺盛で、今年も7月には、英国の「Fulham」という外食産業を手に入れている。フルハムは、直営店72店舗を持つピザチェーン「Franco Manca」(フランコマンカ)と直営店27店舗を持つギリシャ料理チェーン「The Real Greek」(ザ・リアルグリーク)を運営している。

海外244店舗、人気メニューはみな日本と違う

話を「丸亀製麺」に戻す。現在、「Marugame Udon」は、アジア太平洋・アメリカ・ヨーロッパの8の国と地域に、244店舗(2023年10月現在)を展開している。

その内訳は、次の通り。
ハワイ2
アメリカ本土11
台湾52
フィリピン41
香港11
ベトナム13
カンボジア3
イギリス11
インドネシア100

私が「丸亀製麺」の海外での大人気を知ったのは、ハワイのワイキキ店の大行列を見てからだ。ワイキキ店は海外1号店で2011年4月にオープンすると、連日長蛇の列ができているというので行ってみると、なんと30分〜1時間待ちというので本当に驚いた。さらに驚いたのは、このワイキキ店の売り上げが、日本のどの店より多く、ダントツの1位だと聞いたことだ。

それまで、出来合いの日本のうどんしか知らなかったハワイ人は、うどんと一緒にセルフで好きなサイドメニューが選べることに驚いたという。これが人気の原因とされたが、私が注目したのは人気のうどんが日本とは違うことだった。

1位は「肉うどん」、2位は「カレーうどん」、3位「ガーリックチキン・サラダうどん」。これにサイドメニューで天ぷら各種と「スパムにぎり」があるのだから、納得だった。

もうここまで書けば、おわかりと思うが、海外の「丸亀製麺」は、日本の「丸亀製麺」ではない。ちなみに、海外店の人気メニューは、ロサンゼルスでは「肉たまうどん」、ロンドンでは「チキンカツカレーうどん」、台湾では「トマトチキンうどん」である。

海外の日本料理店は日本料理店とは言えない

海外で成功するための秘訣は、ローカライズ(現地化)にあるという。「丸亀製麺」の成功は、まさにこれを地で行ったことにある。海外の「丸亀うどん」について、「あれは日本のうどんではない」という日本人は多い。海外の日本料理店の料理を「あれは本当の日本料理ではない」と言うのと同じ理屈である。

確かにそうだが、日本とは違う文化・風土において、そこまで「日本の味」にこだわる意味があるだろうか。フレンチもイタリアンも日本で「洋食」になったように、文化と風土が変われば、食もまた変わるのだ。

ロンドン、ニューヨークなどで人気の和食チェーン店に「Wagamama」(わがまま)があるが、この店は日本人には不評だ。日本人なら誰もが、「なんでこれが和食なんだ」と言うメニューばかりだからだ。

例えば、和食というのに「カツカレー」がある。で、それを注文すると、なんと日本のカツカレーとは違うものが出てくる。カツが一番下で、その上にご飯がのっていてカレーがかけられているのだ。しかし、これが、現地では人気のメニューにひとつになっている。

なぜライバル「はなまる」は撤退したのか?

日本で「丸亀製麺」と並んで人気のうどんチェーンと言えば、「はなまるうどん」である。じつは、「はなまるうどん」も「丸亀製麺」と同じように海外進出したが、現在は海外店舗すべて閉じて撤退してしまった。

「はなまるうどん」の海外展開は、2011年の中国進出から始まり、2018年には海外に30店舗を展開していたが、2023年8月に最後の1店舗となっていた上海店をクローズして、海外から完全撤退したのである。

なぜ「丸亀製麺」が成功したのに、「はなまるうどん」は失敗したのか? それは、「はなまるうどん」が海外に日本をそのまま持ち込んだからだ。もともと、「はなまるうどん」はシンプルに量で勝負してきた。そのため、メニューのバリエーションは「丸亀製麺」より少なかった。

ただし、海外進出するにあたってそれを増やし、例えば和風のおでんや鰻といった日本食中心のメニューをつくった。ところが、これが受け入れられなかった。逆に「丸亀製麺」は、現地で人気のビーフやチキン、カレーのメニューを増やしたのである。

ローカライズはグローバルへの道。極端な自前主義、こだわりを捨てないと、世界では通用しない。このことを「丸亀製麺」は、教えてくれている。

新興ASIAウォッチ/著者:山田順

新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。

山田順(やまだ じゅん)

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。

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投稿更新日:2023年11月27日


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