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「金城湯池」という言葉がある。金でできた城と熱湯の池。つまり、守りが堅く落とせない城と堀のことを言う。転じて、堅牢な国や市場のこともこう表現する。
そこで、タイの自動車市場を見ると、まさにこの言葉がピタリとハマるのが日本車だ。タイばかりではない、インドネシア、フィリピン、ベトナムなどでも日本車は最大のシェアを誇っており、東南アジアはまさに日本車の「金城湯池」と言っていい。
タイの場合、新車販売台数のトップ5はみな日本車で、そのシェアは8割を超えている。もちろん、トップはトヨタで、2位がいすゞ(ピックアップトラックが人気)、3位がホンダとなっている。インドネシアはタイ以上で、トップ10まですべて日本車である。
ところが、この日本車の「金城湯池」が崩れる可能性が出てきた。それは、東南アジア諸国でも、「カーボンニュートラル政策」(脱炭素政策)を促進せざるを得なくなり、それに伴いクルマの「EVシフト」(電気自動車化)が進展しているからだ。
これまで東南アジア諸国は、地球温暖化対策に本腰ではなかった。しかし近年、大型台風、異常豪雨、大洪水など、明らかな気候変動による被害に出るようになって、脱炭素化を進めざるを得なくなった。
タイでは、EVシフトの手始めとして、昨年、2025年までに首都バンコクの路線バスをすべてEVバスに切り替えることになった。「BMTA」(バンコク大量輸送公社)は、今後、化石燃料を使う路線バスを段階的に廃止していくことを決定した。タイ国営メディアによると、バンコクの路線バスの総数は3,200台で、このすべてがEVバスになるという。
ちなみに、インドネシアも、ジャカルタのバス交通システム「トランスジャカルタ」にEVバスを導入し、2025年までにほぼすべてをEVバスに切り替えるという。
公共バスのEV化は乗用車よりもハードルが低い。というのは、バスは運行ルートが決まっているので、充電ステーションを設置する場所を限定できるうえ、設置場所が少なくて済むからだ。つまり、EV化のエコシステムを構築しやすい。しかし、乗用車となるとハードルはかなり高くなる。
バンコクは、東南アジアの「デトロイト」と言われるほど、自動車産業が集積している。その中核を担っているのは、もちろん日本メーカーである。しかし、日本メーカーはこれまで、どこもEV化に乗り気ではなかった。そのためか、タイ政府はEV優遇策を明確に打ち出してこなかった。しかし、ここに来て流れは大きく変わりつつあるのだ。
タイ政府は昨年、2030年までに国内で生産される自動車全体に占めるEVの割合を30%に引き上げることを決定した。それとともに、バンコクを東南アジアのEV生産のハブ(拠点)にする目標を設定した。バンコクには、自動車生産のサプライチェーンが整っている。それを利用して、今後はEVシフトを本格化させ、タイを先進国向けのEVの輸出基地にするというのだ。
このため、タイ政府はEV優遇措置を強化した。昨年9月から、EV購入者に1台当たり7万バーツ(約27万円)から15万バーツ(約58万円)の補助金を出すようになった。この補助金は、今後さらに強化されるという。また、EVには道路税軽減措置が適用されることになった。
EVはガソリン車に比べて、まだまだ値段が高い。例えば、日産の「リーフ」のタイでの価格は150万バーツ(約580万円)だから、タイ庶民には高嶺の花となっている。しかし、中国産EVは「リーフ」や「テスラ」に比べると3割から5割は安い。となれば、補助金を加味すれば手が届く。
バンコクで昨年12月に開催された「タイモーターエクスポ」に取材に出かけた自動車ジャーナリストは、中国メーカーのショールーム攻勢に驚いた。中国の2つのメーカーが、トヨタのショールームに匹敵する大きさで、大々的にプロモーション活動を行っていたからだ。沢山の来場者を集め、EVの最新モデルが披露されていた。
中国の2つのメーカーというのは、「BYD」と「GWM」である。BYD(比亜迪汽車)は、日本でもよく耳にするが、テスラに次いで世界第2位のEVメーカーであり、今年は日本でも販売が始まるが、タイでも今後、本腰でEVを販売する意向という。GWM(長城汽車)は、すでにタイでEVを販売しており、今年からは現地生産を開始する。そのため、モーターショーで大々的なプロモーションを展開していたのである。
中国ビジネスのタイへの浸透ぶりは、いまや日本の比ではない。華僑が政府とビジネスの中枢に食い込んでいるせいもあり、情報力もすごい。
中国の自動車メーカーは、これまで完成車をタイに輸出してきたが、タイ政府のEV振興策をいち早く察知して、今後は現地生産にシフトするという。BYDはタイ中部ラヨーン県に工場を建設する方針で、5年以内にタイ市場でトップ5入りを目指すと公表した。
GWMはすでに2014年からタイの財閥CPグループと合弁で現地生産を開始しており、これまでガソリン車のセダンや小型車などを販売してきた。そして、2020年10月からはPHEV(プラグインハイブリッド車)も現地生産を始めたが、今後はBEV(バッテリー電気車)も現地生産をするという。現在、GWMのEVの最安値モデルは77万バーツ(約300万円)で日産「リーフ」の半額程度だから、現地生産となればさらに安く販売できるだろう。
GWMがしたたかなのは、EV普及の鍵を握る充電ステーションの設置に乗り出していることだ。GWMはタイ発電公社などと充電ステーションの開発を行う覚書を締結し、昨年11月にバンコクで開催された「AIPEC」(アジア太平洋経済協力会議)では、会場移動にEVを提供して大々的にアピールした。
このような中国メーカーのEV大攻勢に比べると、王者トヨタのEVシフトは鈍い。昨年来、次々とEV強化政策を発表し、人事も4月1日付で豊田章男社長が会長に就任し、佐藤恒治執行役員が社長に昇格して新体制となったが、これまで通り「全方位戦略」(マルチパス)を維持するとしている。
つまり、ガソリン車もHEV(ハイブリット車)もPHEV(プラグインハイブリット車)もFCV(燃料電池車)も、そしてBEV(バッテリー電気車)も全部やり、市場に合わせて生産・販売するという。ひと口に温暖化対策といっても、EVだけではそれは達成できない。EV生産の全プロセスでそれを達成しなければならない。それならば、EVに偏らず、多様な車種をそろえつつ、温室効果ガスの削減に貢献していこうというのである。
実際、タイの現実の市場はトヨタが言うとおり、まだガソリン車が全盛である。タイの2022年の新車販売台数を見ると、ガソリン車主体のトヨタがトップの28万8,809台でシェア34%となっていてダントツの1位である。日系メーカー全体では、なんとシェアの85%を占めている。EVは、HEVなどを含めてわずか6%、BEVにいたっては0.3%に過ぎない。
こうしたタイのEV大不振は日本市場とそっくりだが、その一因は、充電ステーションの少なさにある。2022年9月時点で、タイ電気自動車協会が発表している充電ステーション数はバンコク周辺に限られ、わずか869ヵ所しかない。
トヨタと日本の自動車メーカーには、1960年代に世界に先駆けてタイに参入し、タイの自動車市場を政府と二人三脚で牽引してきたプライドがある。その結果、現在の「金城湯池」が築かれたわけだが、はたして今後も、全方位戦略でそれが維持できるだろうか?
すでに欧州もアメリカもEV1本化を決め、テスラはそれに向かって邁進中である。中国もEVに全力投資をしている。となると、日本メーカーは全方位を続ければ続けるほど、EV開発に乗り遅れるのではないだろうか?
もちろん、トヨタも手を拱いているわけではない。トヨタは昨年5月、初の量産BEV「bZ4X」を発売した。ところが、早々にタイヤを固定する「ハブボルト」が緩む不具合が判明し、リコール(生産・販売の停止)となった。その後、10月になって再販売の運びとなったが、これがまったくの不振で、今日までほとんど売れていない。
ただし、タイでもモーターショーに合わせて販売されたところ、1日で3,356台の注文が殺到し、受け付けを中止したと報道された。しかし、値段は183万バーツ(約706万円)と高額だけに、富裕層しか手が出ない。
このような経緯を見れば、今後EVシフトを徹底しないと日本車がタイ市場で急落する展開もないとは言えない。
自動車ジャーナリストによると、タイのEV普及のカギを握るのは、ピックアップトラックであるという。というのは、タイでは乗用車以上にピックアップトラックが人気だからだ。タイで2022年に登録された新車の割合は、乗用車42%に対し、ピックアップトラックが58%。タイでクルマと言えば、ピックアップトラックを指す。
「ピックアップはタイの一般ピープルのクルマで、とくに地方ではピックアップが普通。それに比べたらEVは高級車で、まだ富裕層が趣味で買っているだけです。つまり今後、低価格のピックアップトラックのEVが売り出されば、EV化は一気に進むはずです」
トヨタは昨年12月に、ピックアップトラックのEV「ハイラックス」の試作車を公開した。そして、タイにおける記者会見で、アジアの生産技術部門トップ、小西良樹氏が「ハイラックスのEVは開発が完了し、来年には量産の段階に入る。近い将来、タイからお出ししたい」と述べた。
自動車ジャーナリストがもう一つ挙げるEV普及の鍵は、充電ステーションの充実である。タイ政府はとりあえず全国で1万2,000ヵ所設置を目指している。
「この目標を早期に達成しない限り、EV化は進まないでしょう」
はたして、タイの自動車市場は今後どうなっていくのだろうか? EV化が進むと、日本車の「金城湯池」が崩れてしまうのだろうか? いまが正念場と言えるだろう。
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※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。
投稿更新日:2023年04月11日
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