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【新興ASIAウォッチ/第112回】中国を逆転か? インドが「世界の工場」に!

コロナ禍収束のなかで脅威の成長

いま、世界の投資家が最も注目しているのがインドだ。インドの2022年4~6月期(第1四半期)の経済成長率は前年同期比13.5%と、2022年1~3月期(同4.1%)よりも大幅に増加した。世界がコロナ禍から立ち直る中で、これほど大きな経済成長をとげた国はない。IMFの予測によると、2022年度のインドの名目GDP成長率は通年で11.5%となり、過去最高を記録するという。

インドの経済成長のエンジンは、好調な個人消費にあるとされる。いわゆる“リベンジ消費”で、コロナ禍のために抑えられてきた潜在的消費需要がコロナ禍の収束によって、一気に吹き出したというのだ。

今年度のIMFの世界の実質GDP成長率予想(名目ではない)では、インドは7.7%と主要先進国・新興国の中でダントツの1位となっている。 2位は中国の5.9%だが、習近平指導部がいまだに厳格なコロナ規制を続けているので、5%を割り込むのは確実と見られている。となると、近い将来、インドが中国を抜くこともあると、ここにきてにわかに言われるようになった。

長年中国を上回れなかったインド

インドが中国を抜いて次の「世界の工場」になるという見方は、以前から少なからずあった。しかし、インドの経済成長率はこれまで中国を凌駕したことはない。そのため、実現するとしてもかなり先だろうと見られてきた。

そこで、中国の1980年から2022年までの42年間の経済成長率を振り返ってみると、中国がインドをはるかに上回っている。インドの年平均は約5%だが、中国は2桁成長の年もあって約10%も成長している。1人当たりのGDPで比較してみても、インドの年平均4.4%に対し、中国は8.1%とほぼ倍の成長をしてきている。

では、インドの経済成長率が低いのかというと、そうではない。なぜなら、この42年間でパキスタンは2.1%、バングラデシュは3.3%、インドネシアは3.3%だからだ。つまり、インドの経済成長率はアジアでは十分に高かったのであり、それが今回、中国を上回ろうとしているのだ。

アップルが「iPhone14」をインドで製造

投資家が注目している出来事がある。それは先日、アップルが最新モデルの「iPhone14」の製造の一部をインドで行うと発表したことだ。これには、多くの投資家、メディアが驚いた。いくらIT産業が集積しているとはいえ、インドは最適地と言えず、これまで撤退したITビジネスも多いからである。

アップルの発表を具体的に見ると、「iPhone」をはじめアップル製品の製造を請け負っているフォックスコンが、チェンナイ郊外の製造拠点で「iPhone14」の製造に着手するという。 アップルは2017年にインドでの「iPhone」製造を開始したが、製造ラインナップは古いiPhoneモデルに限定されていた。それを一新し、インドの国内市場も見据えて製造するというのである。

つまり、アップルは今後インドでも「iPhone14」が売れると判断したようだ。これは、画期的なことである。なぜなら、2021年のインドのスマホ市場におけるアップルのシェアは、たったの3.8%に過ぎないからだ。日本の47.0%と比べたら、この数字は圧倒的に低い。

あらゆる製造業がインドに集積

インドでは、サムスン(韓国)やシャオミ(中国)などの低価格スマホが、いまシェアを独占している。しかし、今後はアップルのような高価格スマホも売れるという見方がある。それを裏付けるのが、1人当たりのGDPの伸びと個人消費の旺盛さだ。これに、アップルは乗ったと考えられる。実際、インドでは、旧機種となったとはいえ「iPhone13」の売れ行きはいいという。

米CNBCの報道では、2022年中に「iPhone14」製造の全体の5%がインドにシフトされるという。また、2025年までにアップルは、「iPhone」の最新モデルの製造の25%をインドに移管するという。

インド経済は、農業中心の経済である。労働力人口の3分の2が直接あるいは間接的に農業で生計を立てている。しかし、ここ十数年で急速に工業化が進み、製造業が大きく発展した。自動車、自動車部品、電子部品から半導体、ハイテク製品、工作機械、医薬品まで、インドにはあらゆる製造業が集まってきている。

日本を抜き世界第3位になる自動車市場

インドの製造業というと、日本人なら誰もが思い浮かべるのがスズキの自動車だろう。スズキはインド国内メーカーの「マヒンドラ」や「タタ」、韓国の「ヒョンディ」といったメーカーを抑え堂々のシェア1位を獲得しており、そのシェア率はなんと約43%(2022年4月)である。インドで走っているクルマの2台に1台がスズキというすごさだ。

こうしたインドの自動車産業をはじめとする製造業を支えるのが、「Make in India」というコンセプトだ。これは、モディ政権が掲げる政策で、インドを世界の製造業の中心拠点にしようというものだ。

インドにおけるクルマの販売台数は、コロナショック発生直後に激減したが、いまやすっかり回復している。インドの自動車産業の市場規模は2021年時点で日本に次ぐ世界第4位。2022年はまだ終わっていないので確定できないが、日本を抜いて世界第3位になることが確実視されている。

人口ボーナス期で成長は約束されている

すでに定説化しているが、経済成長を促進させるのは人口増加である。「人口ボーナス」「人口オーナス」という言葉があるように、人口の増減は経済成長と連動する。インドはいま、人口ボーナス期にある。毎年、確実に人口が増えていて、国連の推計によると、2023年にはインドの人口は中国を上回り世界最多になる。

現在、中国とインドはそれぞれ約14億人以上の人口を抱えてほぼイーブンだが、中国は今後、少子高齢化が急速に進み、人口オーナス期に入る。それに対してインドは人口ボーナス期が続き、2050年には人口が16億人を超えると推測されている。

このように、インドの将来は明るい。投資家がインドに注目するのは、十分な理由があるのだ。とはいえ、インドにしても世界的なインフレ、金融引き締めの影響を受けている。ただ、それにより成長の勢いが鈍化することはあっても、勢いは衰えないと見られている。

2023年度の経済成長率の予測は、IMFをはじめとする国際機関、主要金融機関、リサーチ会社などでほとんど変わらず、7%を上回っている。これは、すごい数字だ。インドこそが「次の大国」、「世界の工場」であることは、ほぼ間違いないだろう。

新興ASIAウォッチ/著者:山田順

新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。

山田順(やまだ じゅん)

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。

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投稿更新日:2022年11月29日


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