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【新興ASIAウォッチ/第111回】日本がリードする東南アジアのオタク文化

入国規制緩和でアジアのオタクがどっと訪日

10月11日から、コロナによる入国規制がほぼ撤廃され、外国人観光客が以前のように日本にやって来るようになった。といっても欧米人は少なく、中国を除くアジアからの旅行客が圧倒的に多い。特に台湾、韓国、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシアからの旅行客が多く、その中には明らかに“オタク”の若者たちがいる。

彼らは、日本の定番観光地にも行くが、東京なら絶対に外さないのが、秋葉原(アキバ)と中野(中野ブロードウェイ)、大阪なら日本橋(ポンバシ)だ。ここは、日本のマンガとアニメで育った彼らの神聖なる場所、つまり「オタクの聖地」である。

コロナ禍で、オタクの祭典として知られる世界最大規模の同人誌即売会「コミックマーケット」(コミケ)は、これまで2回中止になったが、今年の8月にやっと再開された。しかし、馬鹿げた厳しい入国規制があったため、海外オタクは訪日できなかった。それが、やっと規制緩和となって、日本にどっとやって来た。いまや、日本各地にオタク向けのゲストハウスもできている。

なぜ中野ブロードウェイは「オタクの聖地」

だいぶ前になるが、私は彼らがなぜ東京で観光スポットでもない中野に行くのかがわからず、シンガポールから来日した若者、といっても30代半ばで金融関係の仕事をしている青年に聞いたら、「あなたは本当に日本人なんですか?」と真顔でびっくりされたことがある。

中野ブロードウェイは、世界中に知れ渡ったオタクのデパートで、ほぼ全てのコミック、レアなマンガ雑誌やポスター、アニメとアニメ関連グッズ、フィギュア、コスプレ、ゲームなどが揃う専門店が30店以上も入居していて、「聖地中の聖地」なのだった。私が中野ブロードウェイに行ったのは1980年代半ばで、その1度だけ。それで、機会を見つけて行ってみて本当に驚いたことを覚えている。

シンガポールの青年は、こう言った。
「日本のアニメ、特に『ガンダム』と『エヴァンゲリオン』のファンなので、どうしても行きたいんです。いろいろ情報を仕入れてきたので、それをこの目で確かめたい。それが目的で日本に来たんです」

オタクは国際語となり、世界中に拡散

オタクはいまや世界中にいる。日本のオタク人口より、世界のオタク人口の方が圧倒的に多い。ここ数年、私はニューヨークで開催される「アニメNYC」と「NYコミコン」に何度か出かけた。そこで、世界中から集まったコスプレイヤーたちを見て、本当に納得した。そして、クールジャパンはオタクに尽きると思った。

なにしろ、ロシアのスケートの女王ザギトワが、『セーラームーン』の大ファンで、そのコスプレでエキシビションに出場するのだから、日本のオタクパワーはすごい。

オタクはもはや国際語だ。英語のみならず、何語でも通じる。私のようなオールド世代は、「引きこもり」「変わり者」のようにネガティブに捉えてきたが、いまの世代はその逆で、ポジティブに「オタクライフ」を楽しんでいる。マンガ、アニメ、ゲームの世界に浸り、コスプレを楽しみ、フィギュアを集めている。そうしながら、「オタクパーティ」、「オタクツーリズム」に余念がない。

リアルタイムで日本マンガ、アニメが見られる

オタクは、オタクと言うより、日本が生んだ最高の「サブカルチャー」である。さらに言えば、もはや日本の「メインカルチャー」だろう。このことは、東南アジアを旅してつくづく思う。昔は、どこに行っても「メイドイン・ジャパン」のテレビ、冷蔵庫、バイク、クルマなどが溢れていた。

それがいまや、中国、韓国勢にすっかりやられ、クルマ以外に日本の存在を感じるのは、和食以外ではマンガとアニメだけになった。経済衰退とともに、日本のハードパワーは衰えたが、逆にカルチャー(文化)によるソフトパワーは強くなった。

最近では『進撃の巨人』や『鬼滅の刃』は、どの街でも見かける。『NARUTO』、『ONE PIECE』、『ドラゴンボール』、『名探偵コナン』、『セーラームーン』、『ドラえもん』、『ガンダム』、『エヴァンゲリオン』などは、もはや定番と言っていい。

驚くのは、日本とほぼリアルタイムで、新作マンガ、新作アニメを見ていることだ。だから、ちょっとでも売れた作品なら、アジアのオタクたちは日本人より知っている。以前は海賊版のコミック、DVDなどだったが、いまや動画配信サービスが普及し、ネットではSNSで世界中と情報交換が可能になった。ネットフリックスでもアマゾンプライムでも、日本のアニメはいくらでも見られる。

ネットの動画配信、SNSで市場が拡大

現在、マンガ、アニメの市場規模は、世界中で拡大している。日本のアニメ市場もこれまで順調に拡大を続けてきたが、中でも伸びたのが海外市場だ。日本のアニメの市場規模は約2兆5,000億円だが、日本動画協会のデータによると、2020年に海外市場規模が国内市場規模を上回った。なんと、約1兆3,000億円を日本のアニメ業界は海外で稼ぐようになったのである。これは、SNSの進展、動画配信の普及によるところが大きい。

いまや、シンガポールでもバンコクでも、ジャカルタでも、日本のマンガ、アニメの新作をリアルタイムで見られるようになった。10年ほど前までは、日本のアニメ映画はどこの国でも、年間2、3本しか上映されていなかった。また、テレビでも人気作品しか放映されていなかった。それが、いまや見放題である。

インドネシア、タイのオタク事情

東南アジアで、日本のオタク文化ファンが多いのは、圧倒的にタイ、インドネシアで、次にマレーシア、フィリピン、シンガポールとなるだろう。その中でタイとインドネシアは、日本と同じような「アイドル文化」があるせいか、オタクが多い。マンガもアニメも、すでに独自で制作しているし、コスプレイヤーも多い。

イスラムの国なのに、なぜインドネシアに日本のようなアイドル文化があるのか、私にはよくわからない。日本の「AKB48」の姉妹グループ「JKT48」がジャカルタに拠点を置いてトップアイドルになったこと、現地では美少女アイドルが大活躍していることなどを思うと、人口約2億6,000万人の平均年齢が28歳と若いからなのかと思う。

タイも同じだ。タイの自由奔放さには本当に驚く。国民は性転換や同性愛について寛容で、日本のマンガ、アニメが大好きだ。タイで驚くのは、日本のBL(ボーイズラブ)のコミックが海外でNo.1の売り上げを誇ることだ。バンコクでBTS(都市交通)に乗ると、日本のマンガTシャツを着ている若者たちをよく見かける。また、コスプレで電車に乗ってくる若者たちもいて、その数は日本より多いのではないかと思う。

中韓の追い上げに負けない日本の強み

ただ最近心配なのが、マンガ、アニメの世界でも、中国、韓国の台頭が目覚ましいことだ。特にアニメ市場では、近年、中国発のアニメが急成長している。中国アニメの海外市場規模は、すでに日本を超えているという調査報告がある。

中国アニメは、最近では『羅小黒戦記』(ロシャオヘイセンキ)が日本でも劇場公開され、高く評価された。中国アニメの特徴は、コンピューターグラフィックス(CG)を駆使し、AIがつくったストーリーを展開していることだ。「中国製造2025」にはアニメ産業の育成も入っていて、大量のITエンジニアが投入されているという。

韓国は、映画、音楽のポップカルチャーでは、もはや日本を断然リードしている。BTSの大活躍を見れば、誰もが認めざるを得ないはずだ。そうした勢いはマンガ、アニメ制作にも及んでいる。日本でも大ヒットした『梨泰院クラス』は、韓国漫画が原作である。 

とはいえ、マンガ、アニメなどのコンテンツの制作において最も重要なのは、その原作の作り手だ。漫画家、アーティストたちである。ここにおいて、日本はまだ大きくリードしている。彼らが生み出した「著作権」「版権」が、日本のソフトパワーの根源となり、著作権・版権収入を稼いでいる。

3年ぶりに開催される大イベントに注目が!

さて、来月末(2022年11月25日~27日)には、アジア圏で最大規模のオタクの祭典「アニメフェスティバル・アジア・シンガポール2022」(AFA SG 2022)が開催される。オタクの祭典というより、ポップカルチャーイベントと言った方がいいだろう。

展示やコンサートを含めた体験型のイベントで、日本のマンガ、アニメ、ゲーム、アニソンなどとジャンル分けしたイベントと違い、ほぼ全てのコンテンツが展示される。そのため、世界中からファンとコスプレイヤーがやって来る。

「AFA SG」は10年以上の歴史を持つが、コロナ禍になったこの2年間は開催できなかった。現在、3日間で例年と同じ12万人の入場客が予想されているが、今年は例年を上回るのが確実視されている。もちろん、日本のコンテンツビジネスも数多く参加し、アニソン歌手やタレントもステージをやる。もし、このときシンガポールに行く機会があるなら、ぜひ、足を運んでみたらどうだろうか。

新興ASIAウォッチ/著者:山田順

新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。

山田順(やまだ じゅん)

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。

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投稿更新日:2022年11月02日


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