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【新興ASIAウォッチ/第101回】インドネシアの「EV」「脱炭素」シフト

EVのハブになることで先進国を目指す

インドネシア政府が、「EV」(電気自動車)と「脱炭素」(カーボンニュートラル)に入れ込んでいる。ジョコ・ウィドド大統領の悲願は、インドネシアを先進国入りさせること。そのために、インドネシアをEV生産のハブとし、それを進めることでカーボンニュートラルを達成するという壮大な絵図を描いている。

インドネシアには、この絵図を実現させるための切り札がある。推定埋蔵量2100万トンで、世界一の生産量を誇るニッケルである。ニッケルはEVの動力源である車載電池(リチウムイオン電池)に欠かせない鉱石で、インドネシアはニッケル鉱石の処理能力においても高度な技術を持っている。また、ニッケルのほかにも、EVに必要なレアメタルもある。ジョコ大統領は、ここに目をつけたのだ。

ニッケルはステンレスの原料というイメージが強いが、リチウムイオン電池の正極材に使われる。正極材でニッケルの割合が増えると電池の高容量化につながり、EVは走行距離を伸ばすことができる。

インドネシアのライバルはタイ

現在、ニッケルの世界の消費は約240万トンで、そのうち車載電池に使われているのが10万トンだが、今後、クルマのEV化が進めば需要は拡大する。2030年には、100万トンまで伸びるだろうと言われている。まさに、ニッケルはインドネシアにとって宝の山となる。

そこで、インドネシア政府は、ニッケルによって、車載電池メーカーやEVを生産する自動車メーカーをインドネシアに集積させるという計画を立てたのである。そうすれば周辺産業も集まり、ハイテク人材も育成できると目論んだのである。

ジョコ大統領が、ASEAN内のライバルと見ているのがタイである。タイは、すでに東南アジアにおける自動車産業の集積地になっている。その結果、タイでは製造業がGDPの約34%、輸出額の約90%を占めている。これに対して、インドネシアは製造業が占める割合が約20%にすぎず、まだまだ農林水産業と鉱業の割合が大きい。これでは、先進国の仲間入りはできない。

EVとカーボンニュートラルのロードマップ

コロナ禍真っただ中の今年7月、インドネシア政府はEV生産のロードマップを発表した。それによると、EV生産を2025年に40万台、2030年に60万台、2035年に100万台とするとしている。

そのために巨額投資を行い、海外の電池産業と自動車産業を誘致。さらに、国営企業と民間企業が協力し、国内でEV用の車載電池を生産する。また、ニッケルの採掘・精錬から、バッテリーパック、リサイクルなどの合弁会社も設立する。

EV普及のための法整備も進める。EVの国内市場を育成するため、EV購入時のぜいたく税の減免措置を導入し、2025年には国内での自動車販売の20%をEVにするという。

EV化を進めるとともに、インドネシア政府はカーボンニュートラル戦略も策定した。カーボンゼロの目標年を2060年とし、そこに向けて2027年にLNGの輸入を停止し、2045年に原子力発電の利用を開始する。これまで以上に、再生可能エネルギーへの転換を図るというのだ。

さらに、EV化では2040年以降に販売される二輪車をすべて電動二輪車とし、2050年以降に販売される新車はすべてEVとすることで、カーボンゼロを達成するとしたのである。

真っ先に手を挙げたのが韓国ヒュンダイ

この11月、ジャカルタでは2年ぶりに「インドネシア国際自動車ショー」が開かれた。日本の自動車メーカーからは、トヨタやホンダなど17の主要ブランドが出展し、EVも多数展示された。しかし、展示の中でひときわ目立ち、力が入っていたのは韓国の現代自動車(ヒュンダイ)だった。

ショーに参加した日本の自動車メーカーの現地関係者はこう言う。
「ヒュンダイのインドネシアにおけるシェアは1%未満。ほとんど売れていません。それが、いずれ日本メーカーを逆転すると鼻息が荒いのです。今回ヒュンダイは、EVの『コナ』と『アイオニック』を展示し、大規模なプロモーションを展開しましたが、その前に会長の鄭義宣(チョン・ウィソン)がインドネシアを訪問し、ジョコ大統領と面談しています」

ヒュンダイはインドネシアのEV促進化計画に真っ先に手を挙げ、西ジャワ州に工場をつくっている。この工場は間もなく完成し、2022年早々には生産を始める予定だという。

ドイツ、台湾、中国、米も投資に前向き

インドネシアのEV促進化計画に手を挙げたのは、ヒュンダイばかりではない。インドネシアのバフリル投資相がメディアに明かしたところによれば、ドイツではフォルクスワーゲン(VW)や化学大手の独BASF、台湾ではホンハイがインドネシアでのEV関連投資に前向きだという。

VWとBASFは車載電池の製造過程の下流への投資に関心があるという。また、ホンハイはEV工場建設の検討を表明しおり、すでに参入計画を具体化させている。さらに、リチムイオン電池の生産で世界をリードする中国も最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)が投資に前向きで、EVで世界をリードする米テスラも投資に意欲を示しているという。

しかし、日本勢はというと、どこも前向きではない。むしろ、二の足を踏んでいる状況である。

インドネシアのクルマの9割が日本車

日本勢が前向きではないのは、EVの普及はまだ先と見ているからだ。とくに東南アジア市場では、EV投入は時期尚早と考えている。インドネシアにおいては、トヨタが2022年にHVの生産開始を目指しているが、EVに関しての動きはない。

日本勢がEVにあまり関心を示さないのは、インドネシアでの自動車のシェアの約9割をトヨタを筆頭にした日本勢が占めているからだ。

調査会社フォーインの調べでは、インドネシアの2020年の自動車販売台数は約53万台で、世界で第18位。そのシェアは、トヨタが約32%、ダイハツが約17%、ホンダが約13%、三菱自動車が約12%、スズキが約10%となっている。もちろん、ほぼすべてがガソリン車で、この状況を崩したくないのが日本勢の本音だ。

石炭火力発電はCO2を大量に排出

もう一つ、日本勢が慎重なのには、カーボンニュートラルに関する大きな問題が解決されていないことがある。それは、これが単にクルマをEVにするだけでは達成されないことだ。

たしかにEVはCO2を排出しないが、電力をつくる発電が化石燃料、とくに石炭火力である限り、大量のCO2が排出される。つまり、いくらクルマをEVにしても脱炭素にはならないのだ。

とくにインドネシアは石炭が豊富なため、石炭火力発電への依存度が高く、電力の6割以上を占めている。現在、稼働中のニッケル製錬所や建設中のニッケル製錬所のほとんどは、石炭火力発電を前提に設計されている。また、自動車生産工場も石炭火力発電所から送られてくる電力で操業している。

インドネシアの再生可能エネルギー利用は進んでいない。水力、地熱などの再生可能エネルギー発電が、地理的にニッケル鉱山近くではできないという点も大きな問題だ。さらに、今後のニッケル鉱山の開発は森林破壊につながると、環境保護団体は反対している。

つまり、インドネシアのEV促進の成否は、石炭に代わる代替エネルギー開発にかかっているのだ。

インドネシアにはまだEV市場がない

さらにもう一つ問題がある。それは、EV車を生産するのはいいが、その市場ができないことには本当の意味でのEV化にはならないということだ。

現在、世界の自動車メーカーは、最終消費者に近い場所での生産にシフトしている。つまり、インドネシアの消費者がEVに積極的にならない限り、EV化は進まない。現在、インドネシアのEVの販売台数はたったの120台(全体の約0.02%)、HEV車も1,000台強(約0.2%)にすぎない。

もちろん、生産したEVを輸出すればいいという見方もあるが、これは難しい。というのは、EVの原動力である車載電池の重量が重く、輸送コストがかかりすぎるからだ。

現在、世界の自動車メーカー、車載電池メーカーは、車載電池の軽量化を必死に進めている。そうしなければ、航続距離を伸ばせないからだが、これがあまりうまくいっていない。今後の技術発展に期待できるとはいえ、現状では、車載電池はまだまだ重すぎる。

EV車が売れているのは、いまのところ、欧米の一部と中国だけである。インドネシアはこうした最終消費地から遠く離れている。この地理的な問題は解決できない。はたしてインドネシアの「EV」と「脱炭素」促進政策はうまくいくのか?いまのところ、なんとも言えない状況である。

新興ASIAウォッチ/著者:山田順

新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。

山田順(やまだ じゅん)

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。

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投稿更新日:2021年12月27日


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