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未知のコロナ変異株「オミクロン」の出現で先行き不安が広がる中、いまのところ東南アジア諸国は感染者数が激減し、落ち着きを取り戻している。はたして、今後、東南アジアにコロナ前と同じような高度成長経済が戻って来るのだろうか?
いまや“先進転落国”になった日本にとっては、個人も企業も東南アジアの成長力を取り込み、ここに投資していくほかない。豊かになりたいなら、東南アジアの成長力に賭けるほかない状況になっている。そこで、今回は投資家視点で、東南アジア経済の今後を考えてみたい。
経済の今後を考えるうえで、もっとも重要なことはなんだろうか? 長期的な視点に立てば、それは人口推移である。今後、人口が増えていくのか?それとも減っていくのか?が、経済成長に決定的に影響する。これは歴史が証明している。「人口ボーナス」と「人口オーナス」という言葉があるように、人口が増えれば経済は必ず発展し、人口が減れば必ず衰退する。
人類史を振り返ると、これまで紆余曲折はあっても、世界全体の人口は常に増加してきた。紀元前8000年ごろ(1万年前)に中東で農耕が始まったとき、人類の人口は500万人ほどだったという。東南アジア諸国で言えば、いまのシンガポール1国ほどの人口しか世界に人類はいなかった。それが、農耕革命で一気に増えて、西暦元年ごろには3億人に達した。
その後、中世までの増加はゆるやかで、17世紀半ばに5億人になったとされる。しかし、18世紀後半に産業革命が始まると人口増加は加速し、19世紀初めに10億人を突破すると、20世紀初めには16億人に達した。
20世紀は、まさに「人口爆発の世紀」とされる。1987年7月11日に、世界人口はついに50億人に達し、国連はこの日を「世界人口デー」と定めた。その後、1999年に60億人、2011年に70億人に達した世界人口は、現在(2021年時点)で 78億7,500万人(国連『世界人口白書2021』)である。
ここからは経済と投資の話になるが、このような人口増の歴史から言えることは、ただ1つ。経済学の理論も株への投資も、みな人口増を背景にできあがってきたということ。
たとえば、株の投資には、「パッシブかアクティブか?」ということが常に言われてきた。どちらが儲かるかという命題だ。が、これは人口増を基にすれば、簡単に答えが出る。人口が増加している限り経済は成長し、株価は全体として上がり続けるからだ。つまり、わざわざアクティブに運用することはないということになる。
パッシブ運用では、たとえば「S&P500」といった株価全体のインデックスに投資する。つまり、銘柄を選ばずに市場全体に投資する。これに対してアクティブ運用では、上がりそうな優良銘柄(ブルーチップ)を選ばねばならない。しかし、この銘柄選びがうまくいくとは限らない。選んだ銘柄がブルーチップでなければ、損失が出る。
しかし、市場全体に投資すれば短期的なリターンは得られなくとも、長期的には必ずリターンが得られる。世界人口は増え続けるからだ。こうして現在の投資の世界では「アクティブはパッシブに勝てない」ということになった。これは、運用比較のデータが証明している。
しかし、今後、もし人口が減ることになったらどうなるだろうか? これまでの人口増社会においては、投資は「プラスサムゲーム」だった。これは、ゲームに参加しているプレイヤーの損得の合計がプラスになることを言う。しかし、ひとたび人口が減少に転じれば、このゲームはプラスマイナスがゼロの「ゼロサムゲーム」か、マイナスになる「マイナスサムゲーム」になってしまう。つまり、パッシブ運用は成り立たなくなる。
それでは、世界人口はこれからどうなるのだろうか?東南アジア諸国の人口はどうなるのだろうか?すでに日本が人口減少に転じ、毎年、40〜50万人の人口が失われているのはご存知のことと思う。これが、日本の経済衰退の最大の原因で、一朝一夕で解決できる問題ではない。では、日本と同じように、世界人口はやがて減少に転じるのだろうか?
結論から言ってしまうと、イエスである。今後、世界人口はマイナスに転じる。東南アジアの国々もまた、日本と同じようになっていく。あの中国ですら、人口減は目前に迫っているのだ。そこで問題は、人口減に転じるのがいつになるかということになる。
世界人口の今後について知りたいなら国連の「世界人口予測」を見るのが一番だ。しかし、最近の研究によると、国連の予測は多く見積もりすぎているという。昨年発表されたワシントン大学のレポートによると、世界人口は早くて2050年ごろから減少に転じるという。
これまでの国連予測では、今世紀中、世界人口はずっと増え続ける。そうして、21世紀後半にピークに達するとされてきた。しかし、ピークはずっと早まり、世界人口は今世紀半ば過ぎに90億人で頂点に達し、その後は減少に転じる可能性が高いというのである。
仮に2050年から人口減に転じるとすると、その前後には、「シンギュラリティ」もあるし、地球温暖化による「気温上昇1.5度」も控えている。つまり、あと30年で歴史は大転換することになる。とすると、世界経済は成長しなくなるので、投資もここからはかたちを変えなければならない。
実際、すでに25ヵ国前後の国で人口は減り始めている。この傾向は今後も続き、人口減少国数は2050年までに35ヵ国を超えるだろうと言われている。すでに人口減に転じた国の筆頭は、日本である。日本の人口はピーク時の2017年には約1億2,800万人だったが、今世紀末までに5,300万人以下に減少すると予測されている。まさに、半減してしまうのだ。
現在、スペイン、イタリアなどの西欧諸国、ポーランド、ルーマニアなどの東欧諸国でも人口が減り始めている。欧州諸国は人口減を移民で埋めてきたが、それもやがて限界に達するという。イギリスは、いま大量の移民を受け入れているが、それでも2063年に人口が約7500万人となってピークを迎え、2100年には7100万人に減少する見通しである。それでは、アジアの国々はどうなるのだろうか?
現在の世界で最も人口の多い中国は、ほとんどいまの約14億人がピークで、今後4年以内に減少に転じ、その後は2100年までに半減して約7億3,200万人になるとされている。そのため、今後はインドが人口世界一になるが、インドもまたしばらくして減少に転じる。いまのところ、インドがピークに達するのは2050〜2060年と見られている。
東南アジア諸国は、人口が3億人に迫るインドネシアを中心にフィリピンやベトナムも1億人超でピークとなり、その後は人口減に転じる。現在、東南アジア諸国のほとんどが人口ボーナス期にあるが、それが続くのはそれほど長くない。次は、各種の統計資料から、ASEAN諸国の人口ボーナス期を予測したもの(筆者作成)だ。
人口順位 | 国名 | 現在人口 | 人口ボーナス期 |
---|---|---|---|
1 | インドネシア | 2億7,020万人 | 2036年まで |
2 | フィリピン | 1億900万人 | 2050年まで |
3 | ベトナム | 9,600万人 | 2040年まで |
4 | タイ | 6,980万人 | 2028年まで |
5 | ミャンマー | 5,700万人 | 2060年まで |
6 | マレーシア | 3230万人 | 2045年まで |
7 | カンボジア | 1,670万人 | 2045年まで |
8 | ラオス | 730万人 | 2050年まで |
9 | シンガポール | 570万人 | 2020年で終了 |
10 | ブルネイ | 44万人 | 2040年まで |
では、順番に見ていきたい。ASEANで人口最多のインドネシアは、今後も人口増が見込まれているが、それもあと20年ほどで2030年代後半には人口減少に向かうという。インドネシア中央統計局(BPS)の発表によると、2020年の総人口に占める生産年齢人口の割合は70.7%で、総人口に占める生産年齢人口が老人や子どもを上回る人口ボーナス期は、「2021年にピークを迎え、36年まで続く」という。インドネシアの人口のピークは3億1,900万人と見られている。
続いてすでに人口が1億人を突破したフィリピンだが、人口増加、人口ボーナス期がASEANの中では最も長く見込まれている。というのは、人口構成は若くフィリピン人の平均年齢は24.3歳だからだ。
フィリピンは、2025年過ぎには現在の日本の人口1億2,600万人を超え、2050年までは増加していく。現在、フィリピンの人口は年間で約180万人増加している。これは、人口にして神戸のような大都市が1つ増えるということである。とすれば、人口増と人口ボーナスから見れば、今後の投資は、フィリピンが最も有望ということになる。
フィリピンには、現在、出産年齢(15歳から49歳)の女性が約2,770万人いる。この女性たちの子供たちが、今後のフィリピン経済を牽引していく。日本では学校の統廃合が進んでいるが、フィリピンでは逆。学校が足りず、学校建設がさかんに行われている。フィリピンはキリスト教国、それもカトリック国で、国民の8割がカトリック教徒である。2012年、フィリピンでは人口抑制法が成立し、貧困層への避妊具の配布や学校での性教育が進んできたが、人口増加は止まらない。
ASEAN人口3番目のベトナムも、人口構成の若さ(平均年齢31歳)から見て、投資有望国である。ベトナムの人口は、今後も増え続け2020年代半ばに1億人を超え、2050年ごろには1億1,000万人に達すると見られている。つまり、人口ボーナス期は、あと30年は続くと考えられている。
ただし、最近の見方だと、経済発展により出生率が急激に低下しているので、人口増加は今後ゆるかになり、2040年ごろには人口ボーナス期が終わりを迎えるという見方もある。
ベトナムの問題点は、出生率の低下により、高齢化社会が意外に早く訪れるかもしれないということ。IMFは、ベトナムは今後急速に高齢化し、年金制度改革が優先課題になると指摘している。あと、20年ほどで、ベトナムも日本と同じ道をたどる可能性がある。
ASEAN人口4番目のタイは、すでに人口減の兆しが見え始めている。タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)によると、タイの人口は今後わずかながら増加を続け、2028年には6,720万人となるが、2029年以降は毎年0.2%のペースで減少し、2040年には6,540万人まで減少するという。よって、タイへの投資はあと10年ほどで手仕舞いにすべきだろう。
ASEAN人口5番目のミャンマー、6番目のマレーシア、7番目のカンボジア、8番目のラオスは、人口においてはまだまだ「伸びしろ」があると見られている。この4国は、いずれも人口構成の平均年齢が若く、いまが本格的な人口ボーナス期にあると見られている。はたして、それがいつまで続くかは、政治情勢も絡むが、最も有望なのがミャンマー、続いてカンボジア、ラオスである。マレーシアは人口ボーナス期が2050年まで続くと見られてきたが、最近では2040年代半ばに終わるという見方が強い。
さて、問題はASEAN人口9番目のシンガポールである。シンガポールではこれまで外国人労働者の受入れ、移民によって、経済成長を続けてきた。しかし、人口増加はわずかに過ぎず、少子化は深刻化する一方である。2020年には、世界一とも言える出生率の低さ1.14を記録し、日本より少子高齢化が深刻である。とくにコロナ禍になってからは、人口減少が進んでいる。
しかし、シンガポール経済は、自由貿易、オフショア金融で成り立っているので、人口減少が大きく影響することはない。一定数の人口を保つ限りは、東南アジア投資のハブとして機能していく。シンガポールは、東南アジア圏の人口ボーナスが終わらない限り、繁栄を続けるだろう。
最後に残ったのは、ASEAN人口最小のブルネイである。しかし、ここは産油国だけに事情がまったく違う。人口は増え続けるが、それは石油がいつまで持つかということにかかっている。
以上、人口推移から、今後の東南アジアの経済を見通してみた。はたして、どのような未来が見えてくるだろうか?いずれにせよ、投資家にとって大切なのは、投資を引き上げる、あるいはほかに移す、そのタイミングだ。それには、人口推移が大きくかかわるのは言うまでもない。
新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。
投稿更新日:2021年11月30日
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