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1月13日、インドネシアでは、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領が自らワクチンを接種する姿をテレビが生中継した。大統領は腕まくりをして、左上腕部にワクチンの注射を受け、国民にメッセージを送った。このワクチンは、中国のシノバック(科興控股技術)が開発したもの。あとで説明するが、不活化というタイプで、ファイザーやモデルナなど、欧米が開発した遺伝子ワクチンとはタイプが違う旧来型である。
なぜ、インドネシアは、欧米のワクチンではなく、中国のワクチンを選んだのだろうか?
それは、欧米のワクチンの調達に手間取る中、中国が無償供与を申し出たからだ。新興アジア圏で最も感染拡大が激しいインドネシアでは、早くからワクチン確保に動いていた。しかし、英アストラゼネカ、米ノババックスから、それぞれ5000万回分のワクチン供給を受ける合意に漕ぎつけたが昨年の末。ただし、供給を受ける時期は未確定だった。両社のワクチンは世界中で引く手数多で、インドネシアに供給の順番が回ってくるのは、少なくとも4月以降になるとされた。
そんなインドネシアの窮状に目をつけたのが、中国だった。中国政府は、早くからワクチンの共同開発、自国製ワクチンの治験と無償供与を持ちかけてきた。これに、一も二もなくインドネシアは応じたのである。
ジョコウィ大統領が接種したシノバックのワクチン第1陣120万回分は、12月6日に到着。続けて、第2陣180万回分も届いた。そうして、摂取が開始されることになり、ジョコウィ大統領が接種第一号になったのである。これを契機として、インドネシアは中国との間で、シノバックのワクチンを1億2500万回分供給してもらう契約を結んだ。
ジョコウィ大統領がワクチン接種を受けた前日、中国の王毅(ワンウイー)外相がインドネシアを訪れた。王毅外相のインドネシア訪問は、中国の「ワクチン外交」の一環だった。1月11日にミャンマー、その後にインドネシア、インドネシア、フィリピンという順に、王毅外相はワクチンとともに各国に支援と友好を呼びかけた。
ミャンマーで王毅外相は、アウンサンスーチー最高指導者と会談。中国製ワクチン30万回分を供与することを表明した。そして、中国が進める「一帯一路」への協力を維持・強化することを求めた。また、インドネシアの後に訪れたフィリピンでは、すでに提供した分の追加として50万回分のワクチンの無償供与を表明し、フテオドロ・ロクシン外相と友好関係を強化する共同会見を行った。
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ政権は、ワクチン確保競争に出遅れたことで、国内メディアの批判を浴びてきたので、とりあえず中国ワクチンに救いを求めることになった。供与を受ける分とは別に、シノバックのワクチン2500万回分を購入することで合意したと、現地メディアは報道した。
中国ワクチンの供給を受けたのはミャンマー、インドネシア、フィリピンだけではない。東南アジア諸国の多くが、中国ワクチンを受け入れ、摂取を始めているか、すぐにも始めようとしている。以下、列記すると次のようになる。
カンボジア:100万回分を調達
シンガポール:調達予定
タイ:200万回分を調達
ベトナム:調達を検討中
マレーシア:1400万回分を調達
ラオス:2000万回分調達で合意
こうしてみると結局、ASEAN諸国のすべてが、中国からワクチンの供与を受けることになる。中国ワクチンに関しては、その効果に疑問の声はあっても、コロナ禍に見舞われた国、とくに途上国にとっては、背に腹は代えられないのだ。
すでに、中国ワクチンは欧州、中東、南米などでも、多くの国々で受け入れられている。欧州ではセルビア、ハンガリー。この2国は「EUからのワクチン供給は遅すぎる」と、中国ワクチンを緊急承認した。トルコ、エジプト、バーレーン、ヨルダン、UAEでも緊急承認され、すでに接種が始まっている。南米ではブラジルが治験と併せて接種を開始しており、チリも供給されればすぐにでも開始する予定になっている。
このように、中国ワクチンは世界中に広まっているが、それはワクチンに人気があるからではない。先進国、裕福な国は別として、途上国ではワクチンを購入する十分な予算がないからだ。WHOでは、こうした不公平を防ぐため、「コバックス」(COVAX)というサブ組織をつくり、独自調達して主に途上国に供給しようとしてきた。しかし、現時点でやっと4000万回分の調達ができただけだ。ちなみに、この「コバックス」の共同議長は、インドネシアのレトノ・マルスディ外相だ。
では、そもそも中国ワクチンとは、どんなものなのだろうか?
前記したように、中国のシノバックのワクチンは不活化ワクチンである。これは、インフルエンザやポリオなどのワクチンで使われている方法で、病原体となるウイルスや細菌の感染する能力を失わせた(不活化、殺菌)ものを原材料として免疫をつくる。
これに対して、先行したアメリカのファイザーやモデルナのワクチンは、遺伝子ワクチンと呼ばれるもので、遺伝子を現在の最先端のバイオテクノロジーによって操作してつくる。この2社のワクチンは、いずれも「mRNA」(メッセンジャーRNA)ワクチンで、不活化ワクチンに比べて培養や不活性化処理などの手間がかからないため、短期間で大量に製造できる。
ただし、このような遺伝子ワクチンが開発されたのは、今回が初めて。したがって、効果はまだはっきり実証されたわけではない。とはいえ、遺伝子工学という最先端の技術を使っているので、従来型よりははるかに安全かつ効果的と私は考えている。
中国の場合、まだ遺伝子工学のレベルが欧米レベルに達していないため、従来型の開発が行われたと思われる。現在、実用化(接種開始)されている中国ワクチンは、前記したシノバックのほかにもう一種あり、これはシノファーム(中国医薬集団)が製造している。どちらも不活化ワクチンで、シノファームは年3億回分、シノバックは年2億回分の製造が可能と表明している。
日本人は、中国のことを信用していないから、政府ははなから中国ワクチンの導入を考えなかった。これは、台湾も同じだ。それでは、中国ワクチンはどれくらい安全なのだろうか?
じつは、中国ワクチンは、データがすべて公開されているわけではない。現在、一般の人間が知り得るのは、メディアの報道と、その根底にある医学雑誌「ランセット」に掲載された中国国内で行われた「コロナヴァク」(シノバックのワクチン)の治験の「フェイズ1」(第1相)と「フェイズ2」(第2相)の結果だけだ。「フェイズ1」には144人、「フェイズ2」には600人が参加し、その結果に専門家が「緊急時の利用に適している」という見解を示している。
本来、ワクチンは「フェイズ3」(第3相:1、2に比べてさらに大規模な治験)を行わなければならないが、これを行なったトルコでは91.25%、インドネシアでは65.3%の有効性が示されたという。ブラジルでも「フェイズ3」が行われ、当初、78%の有効性が示された。しかし、この数値は、その後50.4%に下方修正された。
シノバックは、昨年7月に中国で緊急使用の承認を取得し、これまで国内で感染リスクの高いグループへの接種を行ってきた。9月には、1000人以上の治験を行い、「5%未満の人が軽度の倦怠感を訴えただけだった」と発表している。
いずれにせよ、まだ安全性が確かめられたわけではない。問題は、中国ワクチンもほかのワクチンと同様、2回以上の接種が必要なことだ。そこで計算すると、シノバック、シノファーム併せて年間5億回分しか生産できないから、2億5000万人にしか行き渡らないことになる。中国の人口は約14億人、ASEAN10カ国の総人口は 6億1500万人である。とても1年程度では、コロナ禍は収束しないだろう。
とはいえ、このまま、ASEAN諸国が中国ワクチンに依存するようになれば、新興アジア圏は完全に中国の勢力圏になってしまう。ミャンマーの場合、当初はワクチンをWHOの「コバックス」によって確保し、不足分はインドから購入する方針だった。ところが、突然、中国からの申し出があり、まずは無償供与を受けることになった。しかし、タダより高いものはない。ワクチンは「一帯一路」の強化とセットだった。
中国の拡張主義はもはや止まらない。王毅外相のインドネシア訪問と前後して、南シナ海のインドネシアのEEZ(排他的経済水域)に、中国の調査船が相次いで侵入した。インドネシアの報道によると、1月13日前後に中国の調査船が南シナ海のインドネシア領ナツナ諸島の北方海域や南方海域、さらにカリマンタン島とスマトラ島の間の海域、スマトラ島とジャワ島の間のスンダ海峡などを航行していたことが確認されたという。
残念ながら、安倍、菅政権は新型コロナを甘く見たうえ、ワクチンが安全保障と外交の武器になるという意識がまったくなかった。政府がワクチン開発に投じた予算は約600億円。「Go To トラベル」予算1兆9000億円に比べたら、スズメの涙である。このままいくと、日本の新興アジア圏におけるプレゼンスは低下する一方になるだろう。
新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。
投稿更新日:2020年12月28日
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