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【新興ASIAウォッチ/第88回】「RCEP」はそれほどすごいのか?

主要メディアがトップニュースで報道

さる11月15日、新聞各紙の一面に「RCEP」(アールセップ)の文字が踊った。RCEPとは、「東アジア地域包括的経済連携」のことで、日本、中国、韓国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の各国、オーストラリア、ニュージーランドの15ヵ国が、8年越しのこの協定についに合意・署名したのである。

これを各紙とも「世界最大規模の自由貿易圏が誕生」とし、それをさも菅義偉・新政権の最初の外交成果のように報道した。NHKも同様のトーンでトップニュースとして報道した。

しかし、これはそれほどのニュースなのだろうか? また、本当に菅首相の外交成果なのだろうか? さらに、日本にとってどんな恩恵があるのか?以下、ジャーナリストしての視点から述べてみたい。

報道はすべて垂れ流し報道に過ぎない

では、まず、NHKニュースの報道を振り返ってみる。
「今回は、インド抜きの15ヵ国での合意となりますが、日本にとって最大の貿易相手国である中国や3番目の相手国の韓国を含むアジア太平洋地域で世界の人口やGDPのおよそ3割をカバーする巨大な自由貿易圏が生まれることになります」
まさに、RCEPによって日本と東アジア、東南アジア圏の貿易がいっそう発展するかのような伝え方である。

続いて菅首相の発言だが、その前に今回の合意に当たり、日本は新型コロナウイルス対策としてASEAN諸国に2億ドル以上の医療支援を行うことを表明したことを知っておいて欲しい。それを踏まえて、菅首相はオンライン会合で、日本政府の声明文を読み上げたのである。会合後の首相のコメントは次のとおり。

「ASEANと日本で、平和で繁栄したインド太平洋をともにつくり上げていきたいという思いを、直接、各国の首脳に伝え、そのために必要な具体的な協力を進めていくことで一致した」
「コロナ禍で世界経済が低迷し、内向き志向も見られる中であっても、自由貿易を推進していくことが重要だ」

まさに、いつもどおりの読み上げ声明で、自分の言葉は一切ない。よって、これを額面通りに受け取ってはならない。また、それを垂れ流すだけの日本の報道は、ポイントを外していると考えた方がいい。では、今回のRCEP合意のポイントとはなんだろうか?

ASEAN諸国は大喜びだが日本は?

では、結論から述べてしまいたい。RCEPで恩恵を受けるのは、まずASEAN諸国、続いて農産物を中国に売れるオーストラリア、ニュージーランド、そしてRCEP圏に生産物を売れる中国と韓国である。日本はたいした恩恵はなく、逆に政治的には中国に取り込まれる恐れがあるので、この合意は日本にとってはほとんど意味がない。つまり、日本の報道は手前味噌すぎるのだ。

ASEANの議長国ベトナムのフック首相は、署名式典を前に次のように言った。
「交渉がまとまったことは、多国間貿易システムを支持するうえでのアジアの役割を確認する強いメッセージだ」
要するに、ASEANは大歓迎ということである。

じつは、中国は日本以上に今回の合意について、大報道をした。習近平外交の成果としたのである。どの国もみな手前味噌報道をする点では日本と同じと言えるが、今回の中国の場合はそうではない。

なぜなら、RCEPはそもそも中国が主導で始まった構想であり、いまだに資本移動の自由を認めない中国にとっては、その閉鎖的な体質をカモフラージュできるからだ。RCEP合意により、いかにも中国は自由貿易の促進国のように振る舞える。

もちろん、日本にも多少のメリットはある。中韓は日本の工業製品の関税を段階的に撤廃することになった。これにより、とくに自動車部品などの輸出が拡大する。中国への輸出では、現在は3%程度の関税がかかっているガソリン車用のエンジン部品の一部などが発効時に撤廃される。しかし、時代はすでに電気自動車。日本にそれほどのメリットはない。日本の食品への関税も撤廃されるが、それは微々たるものだ。

なぜインドは離脱したのか?

今回のRCEPの最大の問題点は、インドが参加しなかったことである。インドはモディ政権になってから、「アクト・イースト」構想を掲げ、東南アジア諸国への接近を図ってきた。これは、中国が掲げる「一帯一路」構想に対抗するものだ。したがって、これ以上の中国の東南アジアを経たインド洋への拡張を歓迎してこなかった。

しかも、ここでRCEPに参加して、関税を段階的にでも撤廃していくとなると、中国の安い粗悪製品が流入し、自国の市場が席巻されてしまう。RCEPは、ほかの自由貿易協定などとくらべると、例えば知的所有権の縛りがゆるいので、コピー商品が氾濫しかねないのである。

つまり、インドの離脱は当然であり、これを説得できなかった日本をはじめ、オーストラリアなどは、中国を一方的に利したことになる。オーストラリアのモリソン政権はコロナの対応などをめぐり中国と対決姿勢を取ってきたが、こと経済となるとコロッと態度を変えたのだ。

菅政権は安倍前政権の「継承政権」と自認し、「自由で開かれたインド太平洋構想」を掲げ、これにアメリカの後ろ盾を得てきたが、対中政策は安倍前政権より甘い。菅首相は、インドの不参加に関して、「今後もインドに加入を働きかける」と述べたが、具体的な方策はない。ただし、すでに日本はインドとは「日印EPA」を結んでいる。

「TPP11」への参加を狙う中国

では、今回のRCEPを大成果とした中国の狙いは、どこにあるのだろうか?それは、RCEP合意後、中国政府が、日本やオーストラリアが主導する海洋アジア・太平洋地域の貿易圏「TPP11」(ティーティーピー・イレブン)に中国が加盟することを前向きに考えていると表明したことに端的に表れている。

TPPはもともと、オバマ時代にアメリカが中国に対する包囲網として設定した貿易圏構想だった。しかし、そのアメリカが離脱してしまったので、習近平政権は一息ついたのである。しかも、日本の安倍前政権は、2017年の夏、中国に対して「TPP11は中国包囲網でなく一帯一路と連携する貿易圏です」と表明し、一帯一路に協力する考えを示したのである。

つまり、こうした流れを受ければ、今回のRCEP合意は当然であり、中国はこれにより、今度はTPPにも参加できる可能性が高まったのである。なぜなら、現段階ではTPPにアメリカは参加していないからだ。中国問題の専門家は、今回の中国の狙いは3点あると分析する。

(1)RCEP合意により米中貿易戦争の圧力をそらすこと。そして、TPP 11への参加への道を開くこと。
(2)東アジアと東南アジアを含む貿易圏の設定により、この地域における米ドルの影響力を低下させること。
(3)RCEP発効を機に、国内の産業チェーンを調整して、労働集約産業を中西部に移転し、沿海部は金融や貿易に特化した地域にすること。

日本の「お人好しぶり」は異常

以上の3点が進めば、日本はますます中国依存をしなければならなくなる。万が一、RCEPとTPP11と一帯一路が相互乗り入れ・合体すれば、日本の立ち位置は大きく変わってしまう。米国依存の安全保障と中国・アジア依存の経済との間で収拾がつかなくなる。

自由貿易協定というと、自由貿易を標榜する国々が参加するものと思われがちだが、現実はそうではない。単なる関税調整、貿易ルールの調整の協定である。自由貿易というなら、本来すべての関税は撤廃され、ルールも同一にならなくてはならない。

ただし、理想としては、質の高い貿易や投資の自由化を目指し、例えば知的財産権の保護の厳格化や、透明性に基づく政府調達などが義務付けられる。となると、中国は本来、どんな自由貿易協定にも参加できない。

ところが、日本やそのほかの国々は、「カネ」に目がくらみ、これまで中国の台頭を許してきた。日本がとくに「お人好し」なのは、自由貿易が安全保障と強く結びついていることを認識していないことだ。知的財産権を考えれば、これが安全保障と不可分なのは言うまでもないだろう。

いまや、日本発の新幹線は技術をすべて奪われ、中国全土に新幹線網が張り巡らされている。コロナ禍に見舞われた今年だが、中国は早々とコロナ禍を脱出し、国内経済を立て直し、内需主導で世界最速のプラス成長に転換している。ASEAN諸国は、やはり、中国の恩恵を受けて成長していくほかないのだろうか。

新興ASIAウォッチ/著者:山田順

新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。

山田順(やまだ じゅん)

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。

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投稿更新日:2020年11月24日


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