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【新興ASIAウォッチ/第78回】渇く大河メコンの危機

記録的な渇水が続く国際河川

ベトナム、ホーチミンの人気ツアーのひとつに「メコン川クルーズ」がある。市内からツアーバスでメコンデルタに向かい、その後、ボートに乗って流域を観光する。このツアーでは、ボートクルーズによるクリーク探検だけでなく、河川で暮らす人々の見学、ココナッツファクトリーの見学、果樹園訪問、地元の食材を使ったランチなど、盛りだくさんのメニューが用意され、観光客に大人気だ。

メコン川は、チベット高原に源流があり、中国、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムの6か国にまたがって流れる国際河川。その距離およそ4200キロメートルに及び、古くから流域の人々の生活と経済を支えてきた。

とくに、メコンデルタは、ベトナム随一の穀倉地帯であり、豊かな漁場でもある。また、メコン川流域は「生物多様性の宝庫」と言われ、これまで多くの新種が発見されてきた。現在、流域全体で確認されている種は、哺乳類430種、両生・爬虫類800種、鳥類1200種、魚類1100種、植物2万種にも上る。

そのメコン川が、いま記録的な渇水で、危機に瀕している。とくに昨年(2019年)は、水量が劇的に減り、流域各国のほか、環境団体からも非常事態の警告の声が上がった。

ポンペオ国務長官が中国を非難

モンスーン気候に属するインドシナ半島には、雨季と乾季がある。タイやカンボジアでは、例年5月ごろから10月までが雨季で、11月から4月までが乾季だ。ベトナムもほぼ同じ。そのため、雨季になれば河川は増水し、水量が豊富になる。

ところが、昨年は雨季でも雨量が少ないこともあって、メコン川はまったく増水せず、タイでは灌漑用水が不足して、軍隊が出動する事態まで起こった。水が減ってしまえば、魚は身動きがつかなくなる。タイのSNSには、渇水で一部の水溜まりに閉じ込められた魚たちの写真が投稿され、政府を非難する声が巻き起こった。

この事態に、昨年7月、バンコクで開かれたASEAN関連外相会議において、アメリカのポンペオ国務長官は、「メコンの渇水は、上流の水を止めるという中国の決定から来た問題だ」と中国を非難した。しかし、いくら中国を非難したところで、水量は増えない。

乾季に突入した11月、メコン川流域の国際間の水利関係を管理する国際機関「メコン川委員会」(MRC:Mekong River Commission)は、メコン川の6月から10月までの水位は、約30年間で最低水準だったと発表した。MRCによると、ラオスの首都ビエンチャンの対岸に位置するタイ東北部のノンカイ県では、10月29日に水位が平均よりも数倍浅い約1メートルまで落ち込んだという。この状態は、現在も続いている。

なぜ、メコン川はここまで渇水してしまったのか?それは、ポンペオ国務長官が言ったように中国に原因があるのだろうか?

経済発展のためにダムを大量に建設

多くの専門家、環境団体などの指摘によると、昨年のメコン渇水のきっかけは、上流にある中国雲南省の景洪ダムが7月中旬、放水量を制限したことだという。これに対して、中国は、当然のように反論した。

しかし、こんな論争はそれこそ「水掛け論」で、事態を冷静に受け止めると、これまでメコン流域国が、水資源の管理に関する地域全体の計画に合意できていないことが最大の原因だ。

経済発展が進むメコン川流域各国では、これまで大規模な開発が行われてきた。とくに、中国とラオスは、ダムを相次いでつくってきた。そして今後も、本流と支流を合わせて100ヵ所以上の建設計画が進んでいる。とくにラオスは、「アジアの電力供給源」になることを目指し、2030年までに約150ものダムの新設が計画されている。

そのひとつ、ラオスのサヤブリダムは、総工費44億7000万ドルをかけて昨年10月に完成した。このダムは、タイに電力を供給するためのもので、タイが出資した。また、これまでラオスでつくられたダムの多くは中国が出資・建設し、タイやベトナムに電力を売っている。経済発展には電力は欠かせないから、各国は環境より経済発展を優先させたのだ。

しかし、その結果、大河メコン川は一部で川幅が数十メートルほどしかなくなり、岩がむき出しになるところもできた。また、水は濁り、泥の川と化してしまった。

カンボジアの水上生活者の災難

メコン川流域では、水上で暮らす人々がいる。カンボジアの首都プノンペンでは、メコン川とカンボジア最大の河川トンレサップ川が合流する。このトンレサップ川の上流には、インドシナ半島最大の湖トンレサップ湖(雨季には琵琶湖の7倍)があり、ここには水上集落で暮らす人々が約34万人いる。

雨季にこの湖を訪ねると、その広さに驚く。水上集落には病院も学校もスーパーもあり、住民は船に乗って集落を巡る。私が水上集落をボートで回ったときは、観光スポットの水上ハウスのイケスにワニが何匹も飼われていて、その光景に驚いたものだ。

このトンレサップ湖もメコン川の渇水を受けて、水位が大幅に減っている。また、水の汚染が進み、人々の暮らしを支える魚が獲れなくなっている。昨年は、乾期の水位が下がり過ぎ、これまで1度も岸に上げたことがなかった水上住宅を岸辺に引き上げるという事態が起こった。そのため、漁民は収入が減り、近在の町に出稼ぎに行かなければならなくなった。

カンボジアにチャム族というイスラム教徒の人々がいる。彼らは宗教上の理由で豚肉を食べないため、魚と野菜で暮らしている。そのため、メコン川の渇水で魚が獲れなくなると食生活に行き詰まる。

メコン川には1000種以上の魚が生息し、そのなかには貴重種も多い。たとえば、巨大なメコンオオナマズが有名だ。しかし、いまやメコンオオナマズは「幻の魚」となり、ここ数年、捕獲されていない。

メコンデルタを襲う川岸崩落と塩害

メコンデルタに話を戻すと、ここでは思いもよらないことが起こっている。それは、川岸の崩落だ。そのため、川岸にある商店や住宅が川に流されてしまうということが起こっている。また、田畑や魚の養殖池までが次々と姿を消している。川岸崩壊の原因は「浚渫」(しゅんせつ)だ。

たとえば、メコンデルタにある支流のティエン川は、浚渫船が行き交い、ポンプを使って川底から砂を大量に採取している。いま、ベトナムでは砂はいくらあっても足りない。ホーチミンほか都市の発展は、旺盛な建設需要を生み出し、コンクリートの原料になる砂が大量に消費されている。そのため、カネになる砂をメコンデルタから採取すする業者が跡を絶たない。ベトナムには、こうした採取を規制する法律がない。

この砂の採取により、ここ数年で多くの耕作地が失われ、少なくとも1200世帯が移住を余儀なくされたという。ベトナム政府は、川岸崩落地帯から移動が必要な人口を約50万人と推定している。浚渫の被害を受けているのは人間だけではない。デルタに住む魚や植物などの命が失われている。

また、渇水は塩害も引き起こす。水量が減った河口から、海水がメコン川に流れ込むからだ。この塩害により、多くの田畑が被害に遭い、ベトナム随一の穀倉地帯は、その面積を減らしている。

メコンの姿とダブる中国の長江

いま、メコン流域各国、タイ、ベトナム、カンボジア、ラオスなどは、経済発展に湧いている。しかし、その一方で大河メコンは渇き、流れは淀み、一部は泥の川と化している。その光景は、かつて中国で私が見た光景と同じだ。中国の悠久の大河・長江は、いまや汚濁が進み、上海では水道水が飲めない。「長江の女神」と呼ばれていたヨウスコウカワイルカは絶滅した。

大昔の詩人たち、李白や杜甫が詠んだ美しい自然と、自然に根ざした人々の暮らしは失われてしまった。

この中国と同じことが、メコン川流域でも起ころうとしている。日本各地に赴き、その土地の水の豊富さ、清流の美しさに出会うと、つくづく、日本のよさを実感する。経済発展は、必ずしも人々の暮らしをよくしない。メコン流域各国は、今後、この大きな問題を解決していかなければならない。

新興ASIAウォッチ/著者:山田順

新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。

山田順(やまだ じゅん)

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。

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投稿更新日:2020年01月27日


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