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アジア各国の街を歩いていて、「なにか、ここは男が多いな」と感じたことはないだろうか? 例えば、クアラルンプール。街を歩くと、男ばかりが目について、「女性が少ないな」と感じる。これは、女性があまり外出しないイスラム圏だからなのかと思っていたが、実際に人口構成比で男性が多いと知って驚いた。
マレーシアの人口は、約3130万人で、男女別に見ると男性が約1590万人(50.7%)、女性が約1540万人(49.3%)。男性の方が約50万人も多いのだ。女性人口より、男性人口が多い。これだと、男があぶれる。つまり、男が結婚難になるということではないだろうか?
日本ではここ数年、「結婚難民」が大きな問題になっている。結婚難民というのは、結婚したくてもできない人たち(若者、とくに男性)を指すが、日本の場合、人口構成を見ると、女性の方が多い。総人口約1億2630万人のうち、男性約6150万人(48.7%)、女性約6480万人(51.3%)となっている。女性人口の方が多いのに、なぜ結婚難民が出るのだろうか?それは、女性の平均寿命が男性より約5歳も長いからである。男女の人口比といっても、結婚適齢期人口で見なければならない。つまり、総人口の男女比では、結婚難とは一概に言えないわけだ。
しかし、マレーシアのように、男性人口が女性人口より多いと、これは確実に男性の結婚難民が出る。そこで、アジアの他の国はどうなのか?と調べてみると、驚くべき事情があることがわかった。アジアで、男女の人口比が大きく男性に偏っている国が二つある。中国とインドである。この2国では、結婚難民が増加中なのだ。
かつて上海の人民公園を歩いて驚いたことがある。公園の一角に「男○○年生、身長〇〇、学歴〇〇、仕事○○、年収○○」などと書かれた“求婚ペーパー”が何十メートルに渡って張り出されているところがあり、そこに大勢の中高年パパママが集まって情報交換をしていたのだ。もちろん、「自分の子供の条件」と「相手に求める条件」の情報交換で、成立するとただちに本人見合いが行われるという。
中国の結婚難は耳にしていたが、実際にこういう光景を見ると、日本との違いに驚く。なぜなら、中国では婚活は本人よりも親が熱心にやるものだからだ。
中国では、結婚できない男性を「剰男(スンナン)」と呼ぶ。同じく女性を「剰女(スンニョ)」と呼ぶ。これは「売れ残り」という意味だそうだが、日本のようなネガティブイメージはない。というのは、結婚難民があまりに多いからだ。実際、中国の人口構成を見ると、総人口約13億8600万人のうち、男性約7億1020万人(51.2%)、女性6億7580万人(48.8%)となっていて、男性の方が約4420万人も多い。
しかも若い世代になると、例えば80年代生まれ、90年代生まれで、世代ごとの男女の人口差は約300万人にもなるという。これは、「一人っ子政策」の結果で、女の子より男の子が好まれたからだ。こうして、とくに農村部は男余りが進み、結婚難民が続出。アジア各地の貧しい地域から、結婚ブローカーによって花嫁が強制的に送り込まれるという事態が起こった。しかし、最近は、新興アジア各国も経済発展したので、こうした“結婚ビジネス”は下火になりつつある。
中国より、結婚難民が多いのがインドである。インドも男女の人口比が大きく男性に偏っている。総人口約13億4400万人のうち、男性は約6億9400万人(51.6%)、女性は約6億5000万人(48.4%)で、男性が約4400万人多い。なぜ、インドの人口比はここまで偏ってしまったのだろうか?
この問題を指摘した英「エコノミスト」誌などは、インドでは一世代ほど前から胎児の出生前診断が可能になったため、女の子の胎児を中絶してしまう夫婦が増加したことを原因の一つに挙げている。インドでは女性は結婚で夫の家に入るしきたりになっていて、結婚に際しては持参金がかかる。そのため、女の子より男の子を欲しがる。
一般的に、新生児の男女比は女児100人に対して男児105人前後とされる。ところが、インド北部ハリヤナ州のジャッジャール地区では、0~6歳の男児が6万7380人に対して女児は5万2671人。女児100人に対して男児が128人となっていた(2011年の国勢調査)。もともと男児が多かったのに、その傾向に拍車がかかったわけだ。
結婚難民が増えるもう一つの原因は、結婚が「年上の男性/年下の女性」という組み合わせで行われていることだ。男性は、「自分よりも若い女性」を選ぼうとし、そのため、自分の世代より少ない数の女性の奪い合いとなる。インド政府は現在、女児の出産や教育を促すための啓蒙活動を行なっている。例えば、これまで12週間だった産休を26週間に延ばしたりしている。しかし、その効果はまだまだ未知数だ。
中国やインドと同じような状況になりそうなのが、ベトナムである。ベトナムでは、いまのところ男女の人口比は偏っていない。総人口約9550万人のうち、男性約4720万人(49.4%)で女性約4830万人(50.6%)だから、女性の方が多い。
ところが、近年、女児よりも男児の方が出生率が高い状態が続いているのだ。ベトナムの社会発展研究所が発表したデータによると、2013年の男女出生比率は女児100に対し男児113.0、2015年は112.8となっている。これは、2000年の出生時点の男女比106.2を大幅に上回っている。これが続けば、2050年には50歳未満の男性の12%に当たる約300万~400万人が結婚難に陥ると、社会発展研究所は警告している。
以前のこのコラムで紹介したが、ベトナムは、女性の社会進出が、新興アジア各国の中でもとくに進んでいるほうだ。高等教育機関の入学率や企業・政府機関における管理職の比率などを見ると、男女格差は小さく、共稼ぎの世帯も多い。しかし、農村部ではいまだに苗字を後世まで残すべきという慣習があり、女児より男児を生むことがよしとされている。つまり、「選択的中絶」が行われている。
インドの経済学者でノーベル賞の受賞者アマルティア・センは、すでに1990年の時点で、中国、アジア南部、アジア西部、北アフリカの地域を合わせると、約1億人の女性が「失われている」(missing)と指摘している。はたして、この状態がいまも続いているのだろうか?
国連の人口統計を基にして、アジアでは今後さらに人口の男女比が拡大し、男性の結婚難民が増えると警告する声が高まっている。2050年、中国では100人の女性に対し、160人の男性が結婚争奪戦をすることになるという。
ちなみに、ここまで紹介した以外の新興アジア国(フィリピン、カンボジア、タイ、ラオス、ミャンマー)は、現在のところ、どこもベトナムと同じような人口構成比率で、男女比は偏っていない。ただ、先進国シンガポールはやや女性が少ない。
では最後に、日本の結婚難民に話を戻して、もう少し考えてみたい。日本で結婚難民が増えたのは、女性の結婚に対する条件が上がったことが大きな原因とされている。一時、「三高」という言葉が流行ったが、それは「高学歴」「高収入」「高身長」を意味した。ただ、最近では「三平」(平均的な年収、平凡な外見、平穏な生活)に変わったというが、それでも「平凡」のレベルはかなり高い。
そのため、いまや結婚(初婚)年齢は上がりに上がり、かつては男女共に20代前半だったものが、男性は30歳を上回り、女性も30歳に近づいている。また、生涯未婚率も上昇を続けており、2010年には男性で20.1% 、女性でも10.6%に達した。このままいくと、2030年には生涯未婚率が男性で30%を突破し、3人に1人が結婚できないで一生を送ることになるという。
新興アジア圏は、現在、年率5%を上回る成長を続けている。人々の暮らしは日々豊かになっている。そうしたなかで、男児に偏った出生が続くと、日本以上の結婚難民社会が訪れる可能性がある。すでに、中国、インドはそうなってしまった。
結婚して家庭を持ち、家族とともに暮らす。個人主義の欧米と違い、アジア人にとっては、これが「幸せのかたち」ではないだろうか? それが、今後、失われていくことはさみしい限りではないだろうか。
新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。
投稿更新日:2017年06月25日
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