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【新興ASIAウォッチ/第6回】リー・クアンユー氏に日本はどう見えているのか?

■リー・クアンユー氏が90歳で出した本
シンガポールの初代首相リー・クアンユー氏が新刊を出した。今度の本は、自らの世界観を語ったもので、その中で日本についても言及している。 リー・クアンユー氏といえば、シンガポールの今日の繁栄の礎を築いた世界でも傑出したリーダーである。すでに90歳になるが、まだまだ元気で、息子のリー・シェンロン首相の政治にも厳しいアドバイスを続けている。
そんなリー氏が誕生日を迎える前に出したのが、『ある男の世界に関する見方』”One Man’s View of the World”(日本版未発売)というタイトルの本である。
この本の中でリー氏は、シンガポールの大きな問題は少子化(人口減)であるとし、移民を受け入れながら、その改善に取り組んで行くべきだという持論を展開。日本について言及した章では、日本経済の長期低迷の最大要因を人口の急減であるとし、移民受け入れ政策を取ろうとしない日本の将来に、「私は極めて悲観的だ」と結論づけているという(2013年8月7日AFP記事)。
シンガポールの出生率は2012年で1.2と日本より低く、いまも大量の移民を受けて入れている。この移民政策には反対の声も根強い。しかし、リー氏は本の中で「人口統計は人々の運命を左右する」とし、「シンガポールと日本との決定的な違いはわれわれが移民を受け入れていることだ」と強調しているという。


■英語が話せるとしたら、おそらく国外移住を選ぶ
人口問題に関して、リー氏の日本を見る目は厳しい。
「日本には先端技術があり教育水準も高い」としながらも、人口減はそれを「やがて帳消しにしてしまうだろう」と述べ、「移民に門戸を開かなければ日本の衰退は続く」と続けているのだ。そして最終的に、次のような、私たち日本人にとって強烈なコメントで締めくくっていると知って、私は思わずため息をついた。

「もし、私が日本の若者で英語が話せるとしたら、おそらく国外移住を選ぶ」(“If I were a young Japanese and I could speak English, I would probably choose to emigrate.”)

この指摘は、あまりにもズバリすぎる。
現在、日本の若者は内向きと言われるが、好んで内向きになっているのではない。なぜなら、「英語を話せたら海外で暮らしたいか」と聞くと、たいていの若者は「もちろん」と答えるからだ。


■日本は50年も前のイギリス人よりも排他的だ
リー・クアンユー氏は、回顧録によると、青年期を日本占領下シンガポールで送った。そのとき、旧日本軍による現地住民の大量虐殺を見ている。しかし、戦後の日本は高く評価してきた。 それゆえ、近年の日本の低迷には歯がゆさを感じ、見る目も厳しいのだ。
すでにリー氏は、『目覚めよ日本 リー・クアンユー21の提言』(たちばな出版)という本を数年前に出しており、その中で次のようなことを言っている。

《日本はある意味で、この何十年間にわたる未曾有の繁栄のせいで病んでいる。長期にわたる高度成長期に日本のモデルが成功しすぎたために、変化を求めることが非常に難しくなっている。国際化とは開かれた社会を築き、外資を絶えず歓迎することだ。日本人はいつも色眼鏡を通してアジア人を見る。50年も前のイギリス人よりも排他的だ》

この指摘には、いちいち頷かずにはいられない。日本は、明治期、あれほど国を開き、世界の英知を受け入れたのに、いまは徳川時代に逆戻りしたかのように鎖国的だ。


■リー・クアンユー氏の日本に対する5つの提言
リー氏は、日本が「賢い政府」(Smart Government)になるべきだと提言する。「大きな政府」だと国民がモラルハザードに陥ってしまう。また、「小さな政府」だと貧富の格差があまりにも大きくなってしまう。小さな政府と大きな政府の2つの要素をうまく取り入れて、賢い政府になるべきだと言うのだ。

さらに、リー氏は、自分が日本の首相だったらと、次の5つの提案をしている。
1、日本は物心両面において世界に扉を開け。
2、日本の指導者は「青写真」すなわち未来図に関する政府案を討議せよ。
3、活発な話し合いを促進せよ。
4、もっと意志の疎通を図れ。
5、リーダーシップの新しい形態について討議し、新しいビジョンと目標を提示する勇気を持て。


■シンガポールを訪れた安倍首相の胸の内
安倍晋三首相は、就任1年もしないうちに、中国、韓国を除くすべてのアジア諸国を歴訪した。これは、新興アジアが今後世界経済の中心になると考えているなら、きわめて国益にかなう、日本の将来を見据えた行動だと思う。
もちろん、シンガポールも訪れており、7月26日に、リー・シェンロン首相との会談を持った。そしてその後、シンガポール・レクチャーと呼ばれる会合で講演を行い、アベノミクスを説明、国内でのスタンスとはうってかわって、TPPをテコに構造改革に全力で取り組む方針であることを明らかにした。
しかし、本当に改革が進むのか、大いに疑問だ。シンガポールのような海外投資を大胆に受け入れ、まして移民まで受け入れて国を繁栄させようとは考えていないだろう。日本再生に必要不可欠なのは人口減の解消だという認識はないと思える。
現在の日本では、少子化は問題にされても、移民受け入れは政治家も官僚もほとんど問題にしない。もし人口減を解消するために「移民受け入れ」を提起すれば、国を二分する大論争が起き、憲法問題、TPP問題、原発問題など以上に収拾がつかない状況が予想されるからだ。しかし、リー氏が指摘しているように、このままなにもしなければ、今後もさらに多くの日本人が国を出て行ってしまうのは確かである。


■本当の失敗とはただ一つ、やってみようとしないこと
シンガポール在住の冒険投資家ジム•ロジャーズ氏も、リー氏と同じように日本に対する見方は悲観的だ。
ロジャーズ氏も、この5月に新刊『冒険投資家ジム・ロジャーズのストリート・スマート――市場の英知で時代を読み解く』(神田由布子譯、ソフトバンク・クリエイティブ)を出している。
その中で、彼はシンガポールに移住したことを、「19世紀の初めなら賢い人間はロンドンに行っただろう。20世紀の初めならニューヨークに移り住んだはずだ。そして21世紀が始まったばかりのこの時期、賢い人はアジアに向かう」と述べている。
このアジアの中に日本が入っていないことは明らかで、私たちはそれを悔しがらなければいけない。 私は、ジム•ロジャーズ氏の昔からファンであり、一人娘を持つ親バカなので、今度の本で強く印象に残ったのは、以下の下りである。

「娘たちに何か一つだけ残せと言われたら、夢見る勇気を残してやりたい。情熱を追い求める勇気、失敗してもまたチャレンジする勇気だ。本当の失敗とはただ一つ、やってみようとしないことである」

シンガポールはいまや日本人の若者を惹き付けてやまない国なった。日本を出て行く若者たちは、“情熱を追い求める勇気、失敗してもまたチャレンジする勇気”を持っている。しかし、多くの日本の若者は国内に閉じ込められ、“本当の失敗とはただ一つ、やってみようとしないことである”という人生を選択せざるえない状況になっている。本当に残念としか言いようがない。

新興ASIAウォッチ/著者:山田順

新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。

山田順(やまだ じゅん)

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。

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投稿更新日:2013年08月26日


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