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【新興ASIAウォッチ/第4回】若者は新興アジアを目指す! なぜ彼らはバンコクに来たのか?

■「外向き」の若者たちは新興アジアを目指す
日本の若者は「内向き」と、ここ数年ずっと言われてきた。しかし、それはメディアの偏見だと思う。たしかに欧米への留学生は減っている。海外勤務を嫌がる新人も多くなった。ジモティと呼ばれる地元だけで暮らそうとする若者も増えている。しかし、その一方で、日本を出て行く若者も増えているのだ。つまり、いまの若者は「内向き」と「外向き」に2極化しているのである。 では、「外向き」の若者たちはどこを目指しているのだろうか?
断然、新興アジアだ。ひと昔前は欧米志向だったが、いまは、断然、新興アジアである。
今回は、そういう若者のナマの声を、タイのバンコクからお伝えしたい。


■チュラルンコン大学のタイ語集中講座
バンコクにあるタイの名門チュラルンコン大学のタイ語集中講座(インテンシブタイ)には、現在、日本からやってきた若者たちが数多く在籍している。 以下は、その一人、金子晋也君(27)が、集めてくれた日本人留学生のナマの声だ。金子君は学生時代から、私と親交がある。 ちなみに、チュラルンコン大学はタイのナンバーワンの大学で、日本で言えば東大。国中からエリートが集まってくる。また、アジア各国の留学生も多い。
金子君は、日本の大学を卒業してゴールドマンサックスに就職。六本木ヒルズにあるオフィスに勤務した後、シンガポールに異動。そこで1年間を過ごして退社した。 金子君が在籍するタイ語の講座は、全部で1〜9のレベルに分かれており、1レベル当たり修了まで2カ月かかる。授業は1日3時間を平日毎日×6週間、休み2週間で、全過程修了には18カ月かかる。金子君は、2012年2月より、タイ語集中講座に在学。現在、在学しながら水の資格アクアマエストロ取得、スタートアップでのインターン、ネットビジネスなどに取り組んでいる。


■金子君(27):タイは学生時代から好きな国だから来ました。「どこにいるか」よりも「なにをするか」が大事!
「ボクは学生時代から旅が好きで、いろいろな国を回っているなかでタイが気に入り、いつかタイ語を勉強したいと思っていました。そしてちょうどタイミングが合ったので、試しに去年の3月に1カ月半タイ語を勉強してみたら、面白かったのでその後も続けて、いまに至っています」
「タイ語を勉強し始めてしばらくしてから、本格的にタイを自分の一つの拠点にしたいと思うようになりました。“今後日本にいられなくなって、半年間どこか違うとこに住まなければいけない”という事態が訪れたとき、すぐに行ける拠点にしたいと考えました。かっこよく言えば自分なりのリスクマネジメント、冷静に見れば単なるプータローですが」
「今後の人生設計ですが、まだ決めていません。いま、アジアで起業とか、ノマドで仕事するということがよく言われていますが、それは見当違いで、今後ますます『どこにいるか』ではなく、『なにをするか』が大事になると考えています」
「スマホやインターネット、LCCを例にしたテクノロジーの発達やグローバル化でどこへでも行けるようになっても、自分に価値がなければどこに行っても相手にされません。むしろ、今後は価値を持っているのに、僻地にいてこれまで相手にされなかった個人が、市場や特定の集団から発掘されて求められるようになるのだと思います。 だからこそ、自分の可能性の追求が大事なのだとボクは考えています」
「ボクは日本とボク自身の未来をまったく悲観していません。なぜなら、いま言われている日本の衰退はあくまで人口動態と高度経済成長期型ビジネスモデルへの長年の依存による当然の帰結で、これは自分より上の世代の方(1977年以前生まれ)が、いまがんじがらめになっているだけです。ボクら以降の世代にとっては、あまり考えても仕方がない話だからです」


■青木君(22):大学を休学してタイに。タイ人の友人と化粧品のネット販売を始めた。ただ、一度は就職しておきたい
現在、立命館大学国際関係学部3年生。2012年1月から2013年2月まで大学を休学してバンコクに。2011年には、アメリカのワシントン大学に1年間留学していた。
「じつは、タイはボクが生まれた国なんです。3歳までいました。ですから、タイ語を勉強し、タイ人ともっと話をしたいとずっと思っていました。タイ人がボクの家にホームステイに来たり、家族でタイの知り合い(父の友人)に会いに行ったりするなど、タイと関わることが多かったので、大学を休学してこちらに来たのです」
「ここは気候もよくて物価も安い。それに、日本に近い快適な生活が可能なので、将来はこちらに住みたいとも思っています。 いま、タイ人の友人とネットで化粧品などの販売を試みていますが、いずれもっと利益を出して、自分自身の生活基盤を確立できたらと思っています」
「化粧品のネット販売を始めたのは、たまたま彼女が使っていたタイ製の美白クリームパックを自分で使ってみてよかったので、売ってみようかと思ったのがきっかけです。タイは女性とオカマが多く、年中日差しが強いのでスキンケアの需要は高いんですね。やってみた印象として、モノは日本よりも売りやすいと思います。日本人よりも新しい無名のブランドを使ってみようという人が多い感じです。韓国や日本の化粧品は、韓国製、日本製というネームバリューですごく売りやすいです」
「利益ですか? 2013年2月の利益はタイ人の公務員の給料くらいは出ましたよ。(日本円で15万円ぐらい?)。コツコツちゃんとマーケティングをやっていけば、モノは売れますね。主にタイ製、韓国製を扱い、日本製のものは顔面パックなどのおまけとしてつけています。日本製のものは結構値段が高めの商品が多いので、まずは投資額の少ない韓国製とタイ製の物を売っていこうと思っているんです」
「卒業したら、もちろん就活します。一度は会社を経験してみたいと思っています。タイに進出していて今後タイで働かせてくれそうな会社を探します。タイは日本企業が多数進出しているし、ミャンマーも開国したので、今後東南アジアの地理的中心としてのプレゼンスがますます増すはずです。また、タイ語を話せる日本人の需要も増えるはずですから、いまから楽しみです」


■中村君(24):タイは可能性がある国。現地採用は待遇が悪いので日本で就活を。本社は現地のことを知らない
東北大学工学部在学中の2011年6月よりタイに来てタイ語を勉強し、2012年4月にチュラルンコン大学タイ語集中講座修了。
「たまたまタイ人の留学生と知り合い、気が合ったので、いつかタイに行こうと。来る前に東京でタイ語学校の門をたたき、基礎を勉強しました。ただ、『タイ語を勉強する』というより、『タイ語で遊ぶ』という感覚でした」
「タイ人はちょっとしたくだらないことでも話が盛り上がり、心から楽しめる気質があります。自己主張は強いように感じますが、和も重んじます。知り合いになると微笑んで向こうからも話しかけてくれるので、すぐに友達になれました」
「タイは『サヌック(楽しい)、サバーイ(居心地がいい)な国』とよく言われますが、必ずしもそうではないとも感じました。タイは階級社会で、上位の階級への移動は非常に難しそうです。おそらく、昔は下位の階級の方々も因果応報を信じ、生活を満足し、来世のために徳をつんでいたのですが、最近ではタイでも民主主義が強まり、格差社会に不満を持つ人間も増えてきているようです。私のタイ人の友人に、『日本社会は息苦しい』と言う人が多くいます。私も賛成です。ただ、タイ社会に対しても日本社会とはまた違った息苦しさを感じます」
「今後は、タイ語のスキルを使って日本・タイの間でお互いのことであまり知られていないようなことを伝えていきたいと思っています。大学では土木工学を専攻したので、仕事して土木や環境に関することに携わるのが一つの選択肢です。実際、留学中にJICAの専門家としてタイの洪水対策のための調査にいらした方々から翻訳の仕事をもらいました。そんなこともあり、日本で土木・建設業界でタイ語力を生かして働きたいと思い、昨年帰国して何社か受験しました」
「ただ、採用担当の方々からはタイ語力は付加価値としてしか見られないのがショックでした。現地で調査をしているチームは、工学の知識があって翻訳・通訳ができるレベルのタイ語力を持つ人材がいなくて困っているのに、本社の採用担当は欲しがらないのです。これは、日本の就活が抱える問題を露呈しているのかもしれません」
「タイの現地採用として働けばいいではないか、と勧める方もいます。が、それは考えていません。『使い捨て』になることを危惧しているからです。タイに長い方から『最初働き始めたときの状況が10年続くと思え』と言われたこともあります。せっかく20代の伸び盛りの時期なのに、仕事のスキルもつかなければ、昇進もないのでは……。タイは日本人観光客、日本人の駐在員は優遇しますが、実績のない現地採用の労働者への待遇はよくないと思います」


■統計からも若い世代の海外流出は明らか
総務省の人口推計(2013年2月公表)には、年別データがある。そこで、30代後半までの日本人の動向を見ると、2011年の10月1日現在で、日本における日本人(外国人を除く)の入国者数(79万8792人)から出国者数(82万6503人)を引いた「社会増減」は、2万7711人のマイナスとなっている。 これは、単純に海外から日本に帰国する日本人よりも、日本から海外へ出て行く日本人のほうが多いことを現わしている。この状態を「出国超過」と言う。
この出国超過は、単月ベースで見ると、2012年以降もずっと続いている。
つまり、日本の若い世代は、どんどん海外に出て行ってるのだ。そのことを、あまりメディアが取り上げないだけだ。「内向き」若者のほうが、話としては面白いので、そちらを取り上げているだけである。ちなみに「出国」と見なされる基準は、海外に3カ月以上滞在した場合である。


■企業が出て行けば、おカネも、人も出て行く
日本の若者たちが、新興アジアを目指すようになったのは、日本が衰退しているのを肌で感じているからだと、私は思っている。長引く国内の不況、デフレ・少子化による消費の減退……これに嫌気がさして、多くの企業が活路を求めて海外に出ていった。その行き先は、以前は中国が多かったが、いまや断然、新興アジアである。シンガポール、バンコクを中心にして、ASEAN諸国は、いま、世界のどの地域よりも発展している。
企業が出て行けば、おカネも出て行き、人も出て行く。若者たちが、その後追いをするのは当然だろう。日本国内の雇用市場は氷河期が続き、就職に苦労する学生が続出している。しかし、一歩、日本の外に出れば、まったく違う世界が開けているのだ。
ただし、ここに紹介したタイの日本人の若者たちは、まだ、日本と現地との狭間で悩んでいる。日本企業が国内採用を現地採用より上に置くのを止める日は、いったいいつ来るのだろうか?
日本企業が本当にグローバル化すれば、彼らの活躍の場はもっと増えるだろう。
日本貿易振興会(ジェトロ)が、従業員50名規模の中小企業も含めて海外ビジネスに興味を持っている9357社に行った「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(平成23年度)」というのがある。この調査によると、海外に拠点を持つ企業は、中小企業も含めた全体で51.5%に達している。 つまり日本の会社の半数以上は、とっくに海外に進出しているのだ。しかもその場所は、アメリカが33%、ヨーロッパが22%なのに対して、新興アジアが断然に高くなっている。タイ31%、香港24%、シンガポール20%、ベトナム17%、インドネシア17%である。
もはや、日本は新興アジアなくして成立しない時代に突入している。

新興ASIAウォッチ/著者:山田順

新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。

山田順(やまだ じゅん)

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。

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投稿更新日:2013年06月21日


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