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【新興ASIAウォッチ/第129回】新首相が抱えるシンガポールの難題

「リー家の時代」の終焉を告げる交代劇

5月15日、シンガポールで20年ぶりに新首相が誕生した。政権交代ではなく、与党PAP(People’s Action Party:人民行動党)の既定路線にしたがって72歳のリー・シェンロン首相が辞任し、51歳のローレンス・ウォン副首相兼財務相が首相の座に就いたのである。

  シンガポールでは、1965年の独立以来、リー家の約60年にわたる政権が続いてきた。初代首相の故リー・クアンユーが31年間、その後、中継ぎとして腹心のゴー・チョクトンが4年間、そして、故リー・クアンユーの長男リー・シェンロンが20年間。しかし、今回首相になったローレンス・ウォン氏は、リー家とは無縁の生え抜きの官僚・政治家。つまり、民主国家とはいえ、独裁に近かった「リー家の時代」は終焉したと言える。

それにしても国家ができて約60年間で4人の首相しかいないというのは、日本のようにコロコロと首相が代わる国から見たら驚きだ。しかも、その間、国は発展し続け、いまでは世界有数の先進・富裕国となった。いかにリーダーの資質、能力、先見性が大事かわかるというもの。実際、故リー・クアンユーは、傑出したリーダーだった。

そこで問われるのが、新リーダーのローレンス・ウォン氏がリー家の国家運営を引き継ぎ、さらに国を繁栄させていけるかどうかだ。

NHKは「初の“庶民派”首相誕生」と報道

首相となったウォン氏は、就任式後のインタビューでこう言った。
「30年前に、私がシンガポールの首相になるのが夢と言ったら、誰も相手にしなかったでしょう」
「(私が首相になって)一番驚いているのは、3年前に亡くなった海南島からの移民の祖父ではないでしょうか」

移民国家らしく、ウォン氏の祖父は中国からの移民で、父親は建築会社で営業マンをしていた。生まれたのは、多くのシンガポール国民が暮らす国営の集合住宅。ウォン氏はそこで育ち、地区の公立学校に通った。そのため、本人は「私は一般家庭で育った人間です」と、いつも言ってきた。

これを受けて、日本のNHKは「初の“庶民派”首相誕生」と報道した。しかし、その後の経歴を見ると、ウォン氏はシンガポールの生え抜きのエリート中のエリートである。

ハーバード大ケネディスクールの卒業生

“建国の父”とされる初代首相のリー・クアンユーは、国の発展のためには「優秀な人材が必要。人材こそが資源だ」というのが持論で、教育政策に心血を注いだ。その一環として、早くから子供たちを選抜し、成績優秀者には積極的に奨学金を出した。その恩恵を受けたのが、ウォン氏である。

高校を卒業すると、奨学金を得てアメリカに留学。ウィスコンシン大学マディソン校で経済学の学士(バチェラー)を取った後、ミシガン大学で経済学の修士(マスター)を取得。さらに、ハーバード大学のケネディスクール(行政大学院)に進み、行政学のマスターを取得して帰国した。ケネディスクールの卒業生というのは、アメリカはもとより、世界中の政府で活躍するスーパーエリートである。

帰国後、ウォン氏は政府に入り、官僚として順調に出世した。2005年にリー・シェンロン前首相の首席秘書官になり、2011年の総選挙で初当選して国会議員となった。そして2022年、与党PAP内で次のリーダーを選ぶための意見集約をした結果、リー・シェンロン前首相の後継者に選ばれたのである。

話をよく聞く“決断と実行”の政治家

英「エコノミスト」誌のインタビューで、ウォン氏は自分の政治姿勢に関して、「誰の意見にも耳を傾ける」と述べた。これだけ聞くと、岸田首相が特技としているという「人の話をよく聞くこと」(聞く力)と同じように思えるが、実際はまったく違う。ウォン氏は続けて、「いざとなれば、国家と国民の利益になる限りどんなに難しい決断も下す」と述べたのだ。

実際、ウォン氏は“決断と実行”の政治家で、これまで国民に不人気な消費税の引き上げを、高齢社会に備えるとためとして断行した。また、数々の難しい局面で、リーダーシップを発揮してきた。

ウォン氏に対する国民の支持、人気を決定的にしたのが、新型コロナのパンデミック時に、政府内につくられたタスクフォースの共同議長として陣頭指揮を取ったことだろう。このとき、貢献してくれたエッセンシャルワーカーたちを前にして、涙を浮かべて感謝の言葉を述べた姿に、シンガポール国民は感動した。

1人当たりのGDPは日本の約2.6倍

このように見てくると、ウォン氏が首相に就任したことで、ますますシンガポールは発展すると思われるが、実はこの先進・富裕国は多くの難題を抱えている。ただ、それは後述することにして、まずは、これまでのシンガポールの発展を振り返ってみたい。

シンガポール発展の要因は、ひと言でまとめると、貿易中継地としての立地を生かしたオフショア政策で成功したと言うこと。低い法人税と所得税、相続税がないことを売りに、世界中から富裕層と優良企業を集め、金融ハブ、貿易ハブとして毎年5%以上の成長を続けてきた。その結果、東京23区よりやや広い730㎢に、現在約600万人の人々が暮らしている。2023年の1人当たりのGDPは約8万5,000ドルで、約3万3,000ドルにすぎない日本の約2.6倍で、はるかに豊かである。

シンガポールに拠点を設けている世界の企業は約7,000社で、日本からも約1,600社が進出している。前首相のリー・シェンロン氏は退任時に、2004年の首相就任時からGDPが3.4倍になったことを強調した。この20年間、まったく成長しなかった日本と比べると雲泥の差だ。

国民7割強という「華人社会」の強み

シンガポールの成功のもう一つの大きな要因は、この都市国家が東南アジア唯一の「華人社会」ということだろう。国民の7割強が華人(中国系)で、この人々がよく学び、よく働いてシンガポールを成長させてきた。

ただし、このことを指摘する専門家は少ない。特に日本は反中言論が盛んな国だから、中国人を嫌う。しかし、私はこの目で見て、実際に体験して、中国人が世界で最も資本主義社会に適している人々だと思ってきた。中国は古代から商人の国で、中国人は私たち日本人より利に長けたビジネスマインドを持っている。

華人社会は教育に熱心で、一族の中から優れたリーダーをつくり出す。また、人間関係においては、ビジネスを通して常にウインウインの関係を築こうとする。こうした面は、ほかの東南アジア諸国には見られない。そのせいか、いつ行ってもシンガポールは活気が溢れている。

よく「明るい北朝鮮」と言われるが、リー家は政治権力を独占したものの、資本主義自由経済には介入せず、近年は言論もはるかに自由になった。国営メディアが中心の国だが、最近は政府に厳しい言論も散見するようになり、野党も大きく台頭してきている。

なにもかも高騰する高インフレ経済

では、シンガポール抱える難題とはなんだろうか?
シンガポールのメディアが国民の不満としてよく取り上げるのが、「交通渋滞のひどさ」「住宅費の高騰」「物価高」で、これに加えて最近は「移民の増加による社会の不安定化」も目立つ。

このうち、交通渋滞はERP(Electronic Road Pricing:渋滞課金制度)の導入でだいぶ解消されたが、住宅費の高騰は続いている。シンガポール都市再開発庁(URA)によると、民間住宅賃貸指数は2021年初から2022年末までに43%も上昇した。住宅賃貸料も毎年、前年比で10%以上上がっている。不動産価格も値上がりを続け、「世界で最も不動産価格が高い都市」となって数年、昨年になってやっと横ばいに転じた。もちろん、物価も上昇を続け、「世界で最も物価の高い都市ランキング」では常にトップ5に入っている。

このように、シンガポール経済は完全な高インフレ経済である。そのため、賃金アップがインフレに追いつかないと、国民の不満が爆発する。つまり、ウォン新首相に求められるのは、「富裕層に優しい経済」ではなく、「一般国民に優しい経済」だ。

少子高齢化と食料自給率の低さ

シンガポールが抱える難題で、日本と共通することがある。それは、少子高齢化の進展だ。

65歳以上の高齢者が総人口に占める割合は、2013年の11.7%から2023年には19.1%に増加しており、2030年には25%に近づく見通し。出生率も2023年は0.97で、史上最低を記録している。高齢化は日本がすでに30%近くに達しているので深刻化はまだ先だが、出生率が1.00を切ってしまったのは、本当に深刻である。

少子化による人口減を食い止め、経済を発展させるのには、移民の受け入れが最も適切な政策とされる。そのため、シンガポールはこれまで移民受け入れを積極的に行い、それに成功してきた。途上国からの家政婦や建設労働者などのエッセンシャルワーカー、先進国からの有能人材という二通りの移民が、この国の経済発展に寄与してきた。

しかし、コロナ禍と前後して、「移民反対」の世論が強くなった。一般国民から「外国人に職を奪われる」という不満の声が上がるようになった。そのため、政府はシンガポール人でも代替できる職務へのビザ発給を絞った。専門職向けビザの取得に必要な報酬額を引き上げ、移民条件を厳しくした。その結果、移民は減少したが、はたしてこの政策をウォン新首相は続けられるだろうか?

移民なしでは、シンガポール経済は高成長を続けられない。

米中対立のなかでどう生き抜いていくのか?

最後の難題は、都市国家の地理的、地政学的な問題である。なにぶんにも、シンガポールには資源がほとんどない。水の自給率は60%程度で、隣国マレーシアから供給してもらっている。食料にいたっては、野菜や米はもちろん、鶏肉や豚肉、魚まで、あらゆる食料が自給できず、すべて輸入に頼っている。

シンガポール食品庁(SFA)によると、食料自給率は栄養ベースで10%程度しかなく、これを2030年までに30%に引き上げるのが政府目標となっている。そのため、野菜や穀物の工場や魚介類の養殖施設への積極的投資が続いている。とはいえ、それ以上に引き上げるのは、どう見ても難しい。

よって、シンガポールは世界に敵をつくれない。どの国とも仲良くしなければ生存に関わるからだ。そのため、これまでシンガポールは、特定の国を敵に回す政策は徹底して避けてきた。この政策が、米中の対立が激しくなる中で、はたして続けられるだろうか? これが、今後の最大の政治課題だ。

過去半世紀以上、シンガポールを発展させてきた世界秩序は、最近になって大きく崩れようとしている。ウクライナ戦争やイスラエル・ハマス戦争が続く中、関税の掛け合いと経済安全保障による締め出し政策によって、「米中冷戦」は激化している。こんな国際情勢の中を、今後、シンガポールは巧みに泳いでいかねばならない。

シンガポールには徴兵制がある。軍の兵器はすべてアメリカ製で、アメリカ第7艦隊の寄港地にもなっている。また、軍事教練は同盟国であるオーストラリアや台湾と行っている。しかし、中国、北京政府とも、経済面、人的面で、濃厚に付き合っていかねばならない。

最後に、危うく書き忘れそうになったが、いま人類が直面している最大の問題、地球温暖化がある。近年、シンガポールの年平均気温は1.5℃上昇して暑さも厳しくなったうえに、降雨量も年々激増している。エアコンなしでは生きられない国だけに、温暖化対策は急務だ。

はたして、ウォン新首相はシンガポールをどう導いていくのか?
新首相の最初のハードルとして、現在、年内の総選挙も予想されている。

新興ASIAウォッチ/著者:山田順

新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。

山田順(やまだ じゅん)

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。

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投稿更新日:2024年06月06日


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