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【新興ASIAウォッチ/第41回】カンボジア移住人気は本物か?

ビザの規制が緩く取得が容易

カンボジアへの移住人気が高まっている。ASEAN諸国の中で移住先の人気国と言えば、これまではタイとマレーシアだった。しかし、ここにきてカンボジアが人気で上回るようになっている。とくに、若者の間ではカンボジア人気が異常に高まっている。首都プノンペンでは、「カンボジアは物価が安くて暮らしやすい。しかも、仕事もある」と言う評判を頼りに、とにかくやって来て現地滞在をしている若者が目につくようになった。

カンボジアでは、ここ数年で、海外投資の増加を見込んでビザの規制が緩くなってきた。日本で取得していかなくとも、空港到着時に手続きを行えば発行される。観光査証(シングル、マルチプル1年・2年・3年)、商用査証(シングル、マルチプル1年・2年・3年)があり、現地で滞在延長手続きを行えば長期滞在が可能だ。また、現地で雇用された場合、労働許可証の取得が必要となるが、これは雇用主が申請してくれる。このような状況から、まず行ってみようという若者が増えたのである。

月1000ドルで中流の暮らしができる

そんな日本の若者たちと多く接触している、プノンペンのある不動産業者に話を聞いた。
「ざっくり言って、いまは2通りの若者たちがやって来ます。やる気があって上昇志向のある若者と、日本ではうだつが上がらなかったけど、ここに来ればなんとかなるだろうという若者です。上昇志向の若者は、例えば日本でマーケティングの仕事をしてきて英語が話せるといった具合で、そうだとすれば、ここでは即マネージャーになれます。また、やる気がない若者も、それなりの仕事は見つけられんです。だから、日本以上の暮らしができると、彼らはやってくるんでしょう」

上昇志向の若者は、日系や外資系企業を中心に就職先も決まっていることが多い。もし、月1500ドル以上の給料がもらえれば、彼らは、たいてい、家賃500ドルほどの中流層向けアパート(家具、家電付き)に入居すると言う。ちなみに、現地人の給料平均は月100〜150ドルだ。仕事がなくブラっとやってきた若者は、まず、ゲストハウスに滞在するか、現地人向けのローカルアパートに入る。家賃は50〜300ドル。安いところは、1階が家主で2階がアパートの部屋といった具合で、基本は6カ月〜1年契約と言う。

倹約生活なら月300ドルで十分

そこで、今度は、日本からやって来た若者の1人(27歳)に話を聞いた。
「ボクは旅行代理店にいたので、プノンペンには何度か来たことがありました。それで、生活費が安いうえ暮らしやすいことを知って、いつかここに来ようと決めていたんです。とりあえず来て2ヵ月なので、まだ仕事は決めていません。いまは滞在しながら見て回っているところです」

それでは、彼が言う生活費が安いというのは、どれくらいなのだろうか?
「そうですね。家賃を別にすれば月500ドルもあれば十分リッチにやっていけますよ。週2回か3回高い日本食を食べてもローカルの店は安いから、食費は月300ドルで十分。ガス、水道、電気、交通費などまとめて200ドルはかかりません」

彼より倹約生活をしている若者だと、月300ドルでやっていると言う。食費は、朝は屋台で1〜2ドル、昼と晩は食堂で2〜4ドルですましていると言う。日本で貯めたお金でとりあえず暮らし、職探しをしながら、一人暮らしを楽しんでいると言う。

米ドル経済圏、銀行口座も自由に開設

以上が、若者たちがカンボジアに惹かれる基本的な理由だが、じつは、もっと大きな理由が存在する。それは、カンボジアがドル経済圏であることだ。カンボジアでは、米ドルでビジネスのほとんどすべてが行われている。現地通貨リアルもあるが、信用度と流通度は圧倒的に米ドルの方が高い。ということは、出入国に際してドルを自由に出入りさせられるということにつながる。1万ドル相当以上の外貨を持っていると税関での申告を求められるが、国外への送金にはなんと一切の規制がない。

これは、カンボジアで暮らす、仕事をする、ビジネスをするうえで、外国人にとって圧倒的な有利さをもたらす。例えば、外国人だろうと、預金口座の開設は自由にできる。しかも、外貨建て(ドル建て)の預金には、ゼロ金利の日本では考えられない、想像以上の金利がつく。普通預金金利は0.75%に過ぎないが、定期預金となると1年もので5%近く、2年もので6〜7%になる。

前記した旅行代理店にいた若者は、4年ほど前にこのことを知り、プノンペン商業銀行(Phnom Penh Commercial Bank)で貯金の100万円をドルに替えて定期預金したと言う。
「その後、円安になったこともあって金利と併せて相当儲かりました。そのおかげで、いまここにいる滞在費も十分出ていますよ」

「1年定期で年利6.20%」が大人気

カンボジアでのドル預金は、日本人の間ではかなり前から盛んだった。その人気が一気に高まったのが2013年。プノンペン商業銀行がジャパンデスクを設置し、「1年定期で年利6.20%」という定期預金をつくったことだ。以来、カンボジア在住者でない日本人もプノンペンを訪れて、ドルの預金口座を開くようになった。

ちなみに、プノンペン商業銀行は日本のSBIホールディングスが筆頭株主である。同じように、カンボジアの銀行には日本の資本が多く入っている。民間銀行最大手のAcleda Bank(エイシーダ・バンク)は三井住友銀行が筆頭株主。続く2位のCanadia Bank(カナディア・バンク)は三菱東京UFJ銀行とみずほ銀行と提携しており、さらに3位のCambodia Public Bank(カンボジア・バブリック・バンク)もりそな銀行と提携している。また、業界8位のMay Bank(メイ・バンク)はみずほ銀行が提携先だ。

このように、カンボジアの金融に日本の資本が入っていることは、日本人にとっては大きな安心材料である。ただ、非居住者の定期預金の利息には、キャピタルゲイン課税が14%つく。とはいえ、これは金利の高さから見ればさほど気になるほどのことではないだろう。問題は、カンボジアにはペイオフ制度(預金保護)がないことだ。これには注意が必要だが、現在のカンボジアの状況から見て、この国が金融危機に見舞われる可能性はほぼない。

2016年9月から全日空直行便が就航

さて、米ドル経済圏であるとうことで、もう一つ大きなメリットがある。それは、カンボジアでは100%外資で法人登録を行える、つまり、現地のパートナーがいなくとも会社をつくってビジネスを行えることだ。したがって、上昇志向の若者たちの中には、起業目的でカンボジア移住する者も増えている。

プノンペンはここ数年で高層ビルが立ち並ぶようになり、かつてはバイクばかりだったのにクルマも増えてきた。リバーサイドのカフェに行けば、外国人に混ざって富裕層や中流層がブランチをとっている光景も当たり前になってきた。

そんな中、カンボジア政府は今年から、外国人の不動産習得の規制強化に乗り出した。これまで認められてきた「区分所有建物の所有を認める」(外国人区分所有法)を、今後は厳しくしていくと言う。このようなことから、今後は、ドル経済圏で外国人にとっては天国のような投資環境も見直される可能性が出てきた。とすると、カンボジア移住人気は、いまがピークとも言える。

なお、2016年9月から、全日空がプノンペンに直行便を飛ばすようになった。考えてみれば、これまで直行便がなかったのが不思議なくらいである。この直行便で、プノンペンにはますます日本人が増えるのは間違いないだろう。

新興ASIAウォッチ/著者:山田順

新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。

山田順(やまだ じゅん)

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。

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投稿更新日:2016年10月24日


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