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いま、バンコクの若者たちは、ここ数年で最も暑い夏を迎えようとしている。それは気候ではなく、政治だ。5月の下院選挙で、若きリーダーが率いる「前進党」が第1党になったからだ。
党首の名はピタ・リムジャラーンラット、42歳。アメリカ留学後、タイに戻ってフードビジネスを成功させた人物である。ピタ党首は、勝利を確定させた選挙後、直ちに「首相になる用意はできている」と宣言。その後、第2党となったタクシン元首相の次女ペートンタン氏(36)が率いる「プアタイ」(タイ貢献党)を含む7つの野党と連立して、政権獲得を目指すことになった。
前進党の躍進を支えたのはタイの若者たち、ミレニアル世代、Z世代だ。彼らの多くはいま、バンコクで政治集会を開き、タイの上院に対して、「ピタを首相に!」というアピールを繰り返している。これは、下院の票数を握っても上院での票数を加えないと首相にはなれないシステムになっているからだ。
タイの政治は、2014年の軍のクーデター以後、軍による統制が続き、2019年の民政移管後も親軍政党による事実上の「軍政」となっていた。それが、ピタ党首の登場で「民政」に代われるのかどうか?
注目の首相選出投票は、最短で8月3日とされるが、日程の見通しはまだ立っていない。
タイの下院総選挙(定数500)は、5月14日に実施され、野党の前進党、プアタイが議席数を伸ばし、与党を抑えて野党2党の独占状態となった。前進党の獲得議席は151、プアタイは141で、2党の合計は292議席と過半数を超えた。これに対し、親軍与党「国民国家の力党」は40議席、プラユット首相を支持する「タイ団結国家建設党」は36議席と惨敗した。
それにしても、なぜここまで野党、それも前進党が躍進したのだろうか?
事前予測、世論調査では、ある程度の野党躍進は予測されていた。ただし、前進党よりプアタイのほうが支持率は高く、30%を超えていた。ただ、党首の人気では、プアタイの党首ペートンタン氏より前進党のピタ氏が上回っていた。
プアタイの党首ペートンタン氏は、今年第2子となる男児を出産。ツイッターに「孫の世話をするために(父の)帰国を許可してほしい」などと投稿し、タクシン・ファミリーであることを看板にしていたから、若い世代はそういう色合いを嫌ったと思われる。
前進党は王室や軍の改革のほか、生活に密着した政策を掲げた。中でも、「徴兵制の廃止」「王室に対する不敬罪の見直し」は、かなりのインパクトを若い世代に与えた。いずれにせよ、長引く軍政による閉塞感の蓄積が、前進党に向かったと言える。
その結果、首都バンコクでは、前進党が33選挙区で32議席を獲得した。ピタ党首は勝利宣言でこう言った。
「タイの人々はこれまで希望を失っていたが、過去に戻るのではなく未来へ向かうことを望むと声を上げた結果だ」
では、こうした「未来に向かうこと」=「ピタ新首相誕生」が実現するのかどうかが今後の焦点だが、これは前述したように不透明である。なぜなら、タイの首相は、下院500票と上院250票による投票で選ばれるからだ。現状では、下院における前進党を筆頭とする野党8党の票数は313票である。前進党+プアタイの292議席に、少数野党の票が加わったからだ。
しかし、313票では全体の過半数には達しない。上院議員250名は、事実上、軍が指名した議員であり、まず間違いなく野党側の候補には投票しない。つまり、ピタ新首相誕生には、750票の過半数376票以上が必要となる。となると、野党側が政権を取るには、さらに60議席以上を確保しなければならない。
現時点(本稿執筆時点)では、与党のうち民主党(25議席)はピタ氏の首相就任に同意する意向を示しているが、それでも足りないのだ。
タイでは、政治が機能不全に陥ると、軍がクーデターで介入し、国王がこれを追認するという奇妙な歴史が繰り返されてきた。これで、政治も経済もある程度安定してきたため、国民はこのシステムを受け入れてきた。これを一部メディアは、「タイ式民主主義」と呼んできた。
前回の民政移管選挙でも、上院議員は親軍政党に票を入れ、本来の民政は成立しなかった。しかし、今回も同じ事が繰り返えされるようでは、若い世代は納得しないばかりか、国民全体の不満も爆発するだろう。
ピタ氏は、若いことはもちろん、どの候補者も顔負けの圧倒的なプロフィールを持っている。アメリカ留学で、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)で修士号を取得し、帰国後は父親が立ち上げた食用油などを手がける会社を、父親の急死にともなって引き継ぎ、その後事業を成長させた。タイでは、若手実業家として、常にメディアの注目を集めてきた。
前回、2019年の総選挙では軍政からの脱却を掲げ、第3党に躍進した「新未来党」から出馬して、下院議員に初当選。翌2020年に、プラユット政権によって「新未来党」が解党させられると、新未来党議員らと「前進党」を立ち上げ、党首に就任した。その演説は、熱意十分で、常に若者たちを惹きつけてきた。
こんなスーパーエリートが登場すれば、旧世代エリート層、軍の指導層が反発しないわけがない。自分たちの利権を壊されたくないと、妨害工作に走る。タイでは、こうした既得権層が王室や司法と結びついているため、改革が進まない。
5月22日、タイ選挙管理委員会が、前進党のピタ党首が憲法に違反してメディア企業の株式を所有していたとの疑惑を調査していると、「バンコクポストが報道した。これは、最大与党だった「国民国家の力党」に所属する政治活動家のルアンクライ氏が告発したもので、選管が違憲と判断した場合、ピタ氏は当選取り消しや政治活動禁止の可能性もあるという。
ピタ氏は、メディア企業「iTV」の株式4万2000株を所有していたが、国家汚職追放委員会(NACC)への報告を怠っており、これがメディア企業の株式を所有している候補者の下院選挙立候補を禁止している憲法規定に違反したというのである。
これについて、ピタ氏は嫌疑を否定。問題の株式は父の遺産で、遺産を管理する基金が所有しており、自分は基金を管理しているに過ぎないと説明し、この件は議員就任前に選管へ報告済みだと主張している。
はたして、この件の結果がどうなるかはわからない。ただ、言えるのは、これは既得権層が仕掛けた「政争」(追い落とし)ということだ。
タイは、王制を維持しながらもASEANの中の民主国家として、欧米からの信頼を得てきた。また、経済的にもASEANの優等国として、ASEANをリードしていく立場にある。日本との関係は深く、バンコク中心に日系企業は約6000社が進出し、在留邦人数は約8万人に上る。
それなのに、ここ10年ほどは、王室の権威を借りて軍が実権を握り、タクシン派と対立し、中国、日本、西側諸国を天秤にかける政治・外交を展開してきた。タクシン派対反タクシン派の争いは、もう20年近くも続いている。
しかし、2016年にプミポン前国王が死去すると、王室に対する国民の敬愛の念は薄れた。また、2019年に反タクシン派の中心人物として軍に絶大な影響力を誇ったプレム元首相(枢密院議長)が死去すると、軍内部も分裂するようになった。そして、国外追放されたタクシン氏自身も、いまや73歳になった。
こうしたことを考えれば、タイはいま大きく変わるときに来ている。軍政から民生へ。そして、本当の意味で民意を反映した民主政治システムに移行すべきだろう。外側からタイを見ると、そう痛感する。はたして、ピタ・リムジャラーンラット氏は、タイ新首相になれるのだろうか?
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※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。
投稿更新日:2023年05月29日
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