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【新興ASIAウォッチ/第75回】アニメ映画『アボミナブル』はなぜ上映中止になったのか?

ベトナム、フィリピンで上映中止に!

日本では来年公開予定のアニメ映画『アボミナブル』(Abominable、ユニバーサル・ピクチャーズ制作)が、いまASEAN諸国で大きな波紋を捲き起こしている。米ドリームワークスと中国パールスタジオ(旧オリエンタル・ドリームワークス)による米中合作でつくられたこのアニメは、上海に住む少女イーと雪男のイエティの友情を描いた物語。

上海の会社バーニッシュ・インダスリーズは、魔法が使えるイエティを匿っていた。ところが、イエティは脱走してイーという少女と友達になり、彼女と仲間たちの協力で故郷のヒマラヤに帰ろうとする。こうしてイエティと少女イーの冒険物語が始まり、最終的にイエティは、エベレストに住む家族たちと仲良く暮らすことになる。というのが、大まかなストーリーだが、これは大ヒットした『ヒックとドラゴン』や『カンフー・パンダ』に似たところがある。

 『アボミナブル』はすでにアメリカでは公開され、9月最終週の北米映画興行収入ランキングで初登場首位となった。ところが、10月からベトナム、フィリピンで公開されると、見た観客から批判の声があがり、急遽上映が中止となったのだ。いったいなぜ、中止となったのだろうか?
それは、たった一つのシーンが国際問題に触れていたからだ。

問題は地図に描かれたあるライン

問題のシーンは映画の冒頭近くで、主人公の少女イーが隠れ場所に行き、そこで中国の地図を広げる場面だった。この地図には、中国が南シナ海の領有権を主張するために主張している「九段線」(Nine-dash Line)が、はっきり描かれていたのである。

中国の地図にはすべてこのラインが描かれているが、ベトナムやフィリピンなどASEAN諸国の地図には描かれてない。なぜなら、ベトナムやフィリピンなどは、このラインを認めていないからだ。当然、映画を見た観客は怒った。政府にも苦情が殺到した。

その結果、ベトナム政府は上映中止を命じたのだ。ベトナムの文化・スポーツ・観光省のタ・クアン・ドン次官は、「この作品の上映許可を取り消す」と表明した。

これを受けて、配給会社のCGVシネマズはメディアに向け、地図の描写については10月13日(封切り後10日目にして)に初めて把握したと説明し、直ちにすべての上映と広告を中止した。さらに、公開時に不注意があったとして観客に謝罪するとともに、政府の指示を順守すると表明した。ベトナムもまた、中国と同様の共産党の一党独裁である。政府の決定は絶対だ。

中国の抗議には弱いが小国は無視

フィリピンもベトナム同様の措置を取った。ベトナムが上映を中止した2日後の15日夜、ロクシン外相がこの映画を手がけた制作会社の「全作品をボイコットしよう」とツイッターで呼びかけたのだ。

このベトナム、フィリピンの動きに同調したのが、マレーシアだった。マレーシアではまだ公開されていなかったにもかかわらず、11月7日に予定されていた封切りが見送られることになった。

ロイターなどの報道によると、マレーシア政府は映画を製作したドリームワークスに、問題となっている地図のシーンを削除するように求めたという。しかし、ドリームワークスはこれを拒否したので、中止が決まった。マレーシア映画検閲委員会のモハマド・ザンベリー・アブドゥル・アジズ議長は、メディアにそうコメントした。

この騒動を見て、先日起こったナイキと全米バスケットボール協会(NBA)が中国政府に謝意を表明した事件を思い出した人も多いと思う。私もその1人だ。これは、NBAのヒューストン・ロケッツのダリル・モーリーGMが香港デモを支持するツイートをしたことに対して、中国政府が激しく抗議したという問題だ。この抗議を受けてヒューストン・ロケッツは謝罪し、ナイキは北京のナイキショップ5店舗から、ヒューストン・ロケッツに関連するグッズを撤去してしまったのである。

アメリカ企業は、中国に対しては本当に弱い。巨大市場を失いたくないため、すぐに腰砕けになる。ところが、ベトナムやフィリピンなどの小国に対しては、正当な抗議すら聞き入れないのだ。もっとも、今回の映画はドリームワークスが身売りした中国パールスタジオの資本が入っているので、仕方ないのかもしれない。

「九段線」と南シナ海の領有権争い

ここで、「九段線」と南シナ海の領有問題について少々説明すると、このラインは1953年に中国が勝手に引いたものである。その目的は、南シナ海の利権の確保だった。それが生きてきたのは、アメリカがフィリピンから軍を引いた1990年代からだ。中国は、ここに「力の空白」(パワー・バキューム)ができたことで、南シナ海に7つの人口島をつくり、「九段線」の内側は自国の領海だと主張し始めたのだ。

「九段線」とは9本の境界線ということで、U字型の破線をなし、南シナ海のほぼ全域を囲んでいる。こんなことをされたら、周辺諸国はたまらない。

南シナ海の島嶼の領有権をめぐっては、これまでフィリピン、ベトナム、マレーシアなど周辺6ヵ国が争ってきた。しかし、かつてベトナム領だった「西沙諸島」(パラセル諸島)はすでに中国が実効支配し、もともとはフィリピン、マレーシアなどのものだった「南沙諸島」(スプラトリー諸島)も、その要所はいまや中国のものになっている。

7つの人工島のうち6ヵ所は、1988年にベトナム海軍との「南沙海戦」で奪ったものであり、残り1カ所は、アメリカ軍が1992年にフィリピンのクラーク基地とスービック基地から撤退した後の空白を突いて1995年に占拠したものだ。この7つの人口島には、いずれも港湾施設と軍事施設がつくられている。

2016年7月、オランダの常設仲裁裁判所はフィリピンの提訴により、「中沙諸島」(マクルスフィールド諸島)のスカボロー礁(中国名:黄岩島)を人工島にしたことで、中国がフィリピン漁民の漁業権を侵害していると裁定した。しかし、中国は、この裁定を受け入れなかった。国際法を無視したのである。

ASEANの南シナ海協議はいつも空転

以上のことを踏まえれば、ベトナム、フィリピン、マレーシアが『アボミナブル』を上映中止にしたことが、どれほどのことかわかると思う。

現在、ASEAN10ヵ国は、会議のたびに南シナ海問題を取り上げている。それは、いつ一触即発の事態が起こるかわからないからだ。今年の7月にも、中国の海洋調査船が南沙諸島近辺で海洋調査を実施し、ベトナムの船舶とにらみ合いになる事態が発生している。

しかし、ASEAN諸国の南シナ海協議はまとまらない。中国に対する抗議表明はできず、毎回、声明に「懸念」の文言を盛り込むのが精一杯である。それは、ASEAN諸国の中に、カンボジアのように中国マネーにどっぷり浸かった「親中」国家があるからだ。中国はカンボジアを代弁者に仕立て、「全会一致」を原則とするASEANを牽制しているのだ。

現在、南シナ海にはSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を搭載した中国の原子力潜水艦が遊弋し、人工島にはミサイルや戦略爆撃機が配備されている。これに対して、アメリカは人工島の外海を、駆逐艦などで「航行の自由」作戦を展開している。

映画『アボミナブル』のアボミナブルは、雪男を表す「アボミナブル・スノーマン」から取ったものだが、「忌まわしい」「ひどく嫌な」「不愉快な」といった意味がある。このままでは、南シナ海は「忌まわしい海」となって、その状態が永遠に続くことになる。本当に、なんとかならないものだろうか。

新興ASIAウォッチ/著者:山田順

新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。

山田順(やまだ じゅん)

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。

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投稿更新日:2019年10月25日


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