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【新興ASIAウォッチ/第36回】ドゥテルテ新大統領でフィリピンはどう変わるのか?

■カラオケ好き高じて自分の店を持った
フィリピンに異色の新大統領が誕生した。ミンダナオ島ダバオ市長のロドリゴ・ドゥテルテ氏(71)である。3ヶ月の選挙期間中、過激発言ばかりが報道されたため、「フィリピンのトランプ」と言われ、日本では懸念する向きが多いが、その素顔は意外と知られていない。そこで、今回は、ドゥテルテ氏がいったいどんな人物なのか? そして、今後フィリピンはどうかわるのか?を、彼に直接会ってきた私の友人、ケビン・クローン(越智啓人)(映画『ORIGAMI』監督兼プロデューサー、タレント)の話をもとに紹介してみたい。

ケビンがドゥテルテ氏に会ったのは選挙期間中、大統領選挙が最も盛り上がっていたとき。彼の友人がドゥテルテ氏の側近だった縁で、ダバオ市のドゥテルテ氏が経営するカラオケバーで対面した。この店はカラオケ好きが高じて、ドゥテルテ氏自身がつくったものだという。
「驚いたのは、彼が入ってくるやいなやお客さんが『ドゥテルテ』の大合唱になったこと。それに笑顔で答えて席に着いたドゥテルテ氏と話し始めてみると、すぐにこの人は言われているのとは違う人だと思いました」

■「自分の仕事をしてきただけ」と市長世界栄誉賞を辞退
ドゥテルテ氏の過激発言は、いくつもある。
「私が大統領になれば、血を見る機会が増える」「麻薬密売人や凶悪犯は殺してやる、待っていろ」と、強面で独裁者みたいな言い方をしたこと。さらに、かつてオーストラリア女性がレイプ殺人に遭ったことに関して、「被害者(オーストラリア人)は美しかった。私が最初にやるべきだった」と、下世話すぎるジョークにしてしまったこと。中国と争っている南沙諸島問題に関しては、「(中国が新たに人工島を築けば)私はジェットスキーに乗って上陸し、フィリピン国旗を立て『ここは俺たちのものだ』と宣言する」と言ったにもかかわらず、母方の祖母が中国人のため、「中国とは話し合いをする」とも言ったなどなど—–だ。
これらの発言ゆえ、日本のメディアを含めて外国メディアは、「フィリピンのトランプではないか」と、批判してきたのである。

「しかし、それは違う」とケビンは言った。
「話してみると、ドゥテルテ氏の目は澄んでいて、演説のときのようにすごんではいないのです。彼は、ダバオの市長として犯罪撲滅と闘い、貧困の解消をしてきましたが、それを『ただ自分の仕事をしてきただけだ』と謙遜するのです。実際、彼はフィリピンで初めて無料の救急センター911電話サービスをつくり、モールなど大型店舗には監視カメラを条例で設置。犯罪者を一切許さない強権なところを見せながら、女性の権利向上の条例を発布したりして、ダバオ市を住みやすい街にしてきました。それで、市長世界栄誉賞に選ばれたんですが、その受賞を断っています」


■元検事だけに日本流に言えば“必殺仕事人”
つまり、ケビンによれば、彼は普段はやさしいカラオケ好きのインテリ・ジェントルマンで、フィリピンのトランプなどと呼ぶのはとんでもないと言うのだ。
「ドゥテルテ氏は、日本で言えば、そう“必殺仕事人”ですね。表の顔は優しいが、元検事だけに仕事は厳しいということです」
実際、ドゥテルテ氏はトランプが嫌いで、「彼がアメリカ大統領になったら世界は大変なことになりかねない。じつは、私が一番好きなのはサンダース候補だよ」と言ったというのである。

トランプは女性蔑視発言をしたため、アメリカの女性たちは毛嫌いした。しかし、ドゥテルテ氏の女性人気は非常に高い。選挙期間中に若い女性とディープキスしている写真がばら巻かれ、また、前記したレイプ発言も批判されたがびくともしなかった。
「じつは、インタビュー中に彼はスマホに入れてあるその写真をボクに見せてくれたんです。そして、『写っている人物は自分と違うだろう?』と聞くんです。見るとたしかに違いましたね」


■華人企業とのつながりがあっても日本は巻き返しが可能
では、「中国寄りすぎる」という見方はどうだろうか?
「彼の中国系の血筋と発言から、大統領になったら、日本やアメリカより中国を重視するのではないか言われていましたが、ボクが聞いたかぎりでは、そうは思えませんでした。彼は『世界中と仲良くやっていきたい。フィリピンは戦争などできる国ではない。だから、どの国とも交渉で問題を解決していかなければならない。中国との間の南沙諸島問題も交渉の余地はあると思う』と言いましたよ」

たしかにドゥテルテ氏の支持者の中には、華人企業ファミリーが多い。フィリピンの支配的な華人財閥であるシー財閥、ルシオタン財閥、コファンコ財閥、ユーチュンコ財閥などは彼を支援しているとされ、そのルートで中国が彼を取り込もうとしているとも言われているが、ケビンによれば「日本は十分に巻き返しが可能」と言う。


■ダバオには戦前「リトルトーキョー」があった
ダバオ市は、マニラ、セブに次ぐフィリピン第3の都会で、人口は約150万人。国際空港と世界でも有数の港を持ち、シンガポールや香港とは航空便でダイレクトに結ばれている。マニラからも飛行機なら1時間20分で着く。文教都市の一面もあり、市内には大学が35校ある。豊富な天然資源にも恵まれ、美しいビーチ、高原リゾート、ダイビングスポットなどもあって、観光客も多く訪れている。

そして、なんと言っても強調すべきなのが、「日本とはつながりが深い」ことだ。
「戦前はマニラ麻栽培の関係者を中心に約2万人の日本人が住んでいたと言います。東南アジア屈指の日本人コミュニティがあり、リトルトーキョーと呼ばれていたそうです。ただ、戦後は反日感情が強まったそうですが、ドゥテルテ氏は日本が好きで、『戦後の日本の援助には感謝している』と言いました。また、ダバオがあるミンダナオ島には鉄道がありません。それを言うと、『日本の技術で鉄道ができたら素晴らしい』と言うのです」


■今後フィリピンは世界の成長センターの一つになる
フィリピンはここ数年、アキノ政権下で、年率6%を超える経済成長を続けてきた。一部の東南アジア諸国が人口の高齢化を迎える中、平均年齢が23歳と圧倒的に若く、労働力が経済成長を押し上げる「人口ボーナス」が当面続く。その若い国民の圧倒的な支持を得て誕生した新大統領が、どんな舵取りをしていくかはまだ未知数だが、その性格から見てアキノ政権と同じ現実路線を取っていくものと思われる。

ドゥテルテ氏は、5月16日、予想に反して各国大使の中で日本大使に最初に面談し、18日にはオバマ大統領と電話会談をした。その後、22日に行われたダバオ市での記者会見では、中国を意識しながら「われわれは西側諸国の同盟だ」とも述べた。また、「外資規制を緩めていく」とも発言している。

「いずれダバオは第2のシンガポールになる可能性があります」と、ケビンは最後に言ったが、その可能性は十分あるだろう。実際、すでにいくつかの日本企業や投資家がダバオに目をつけている。ケビンの友人でもある歌手のGACKTもここに別荘を購入している。ドゥテルテ氏の当選が決まった後、「フィリピンは世界の成長センターの一つになる」とオックスフォード研究所とCNNがこぞって伝えたが、それは理由があってのことだったようだ。


新興ASIAウォッチ/著者:山田順

新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。

山田順(やまだ じゅん)

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。

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投稿更新日:2016年05月26日


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