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■わずか2年ほど実現した「国際女学院」
突然、携帯電話が鳴った。表示を見ると、ミャンマー在住の土屋昭義氏からだった。
「ああ、山田さん。例の学校だけど、今度、開校式をやることになったので、ぜひ見に来てくれないか」
土屋氏はこの連載記事(第3回)でも紹介し、私の著書『脱ニッポン国富論』(文春新書、2013)でも、その事業家としてのユニークな生き方を紹介した人物である。
彼は、4年前にミャンマーに移住し、向こうでいくつかの事業を立ち上げた。その事業の一つとして、このほど「MSM国際女学院」という学校をつくり、ミャンマー女性の職業教育に乗り出した。ちなみに、「MSM」というのは「ミャンマー・ストリー・メーキング」という土屋氏の会社の略号。“ミャンマーで新しい物語を始める”という意味が込められている。とはいえ、学校事業というのは事業・ビジネスというより、ボランティアではないのか?
「短期的なリターンを考えたらとてもできませんが、この国の未来を考えたら教育から始めるしかないと思ったんですよ」
そう彼が語っていたのは、2年ほど前のことだった。それが実現した。
■このまま事業をやっても同業者との食い合いになるだけ
土屋氏は静岡県・浜松市の出身。建設業界の風雲児として、公共事業によらない建設会社を一代で築いた人物である。彼とは10年ほど前に友人を通じて知り合ったが、日本の中堅企業の経営者としては、あらゆる面でユニークな考えの持ち主だった。
「もはや日本は高齢化し、人口も減り、市場は縮小を続けている。このまま事業をやっていていても、同業者との食い合いになるだけで未来はないし、夢も抱けない。ならば、海外に出て行くしかない」
そういう考えで、当時から、夢を持ってビジネスができる場所を新興アジアに求めていた。そして、行き着いた先がミャンマーだった。
■アジア馬鹿一家の「凡人の凡人によるグローバル戦略」
じつは、私と友人は土屋一家のことを「アジア馬鹿一家」と呼んでいた。なぜなら、彼は自分の2人の息子を自分の夢の実現に巻き込んでいたからだ。まず、長男を中国で勉強させ、シンガポールに送り込んだ。次男は「お前はインドに行け」とインドに送りこみ、現地の旅行代理店で修行させた。私がなんでそこまでやるのか?と聞くと、彼はこう答えた。
「私の息子は2人とも絵に描いたような凡人。凡人は、もはやいまの日本ではチャンスがない。日本はもう出来上がった社会で、そこで勝ち抜くとなると、相当頭がよくなければできないでしょう。それなら、まだこれから発展する可能性のある国、昔の高度成長期の日本のような国ならチャンスがある。それで、息子たちに『お前たちは日本を出ろ』と言ったんです」
この父親の考えに従った息子さんも息子さんだが、息子を行かせるなら自分も行くと、60歳を超えて本気で日本を出た土屋氏も土屋氏である。これを、親しみを込めて「アジア馬鹿一家」と呼ばなければ、なんと呼んだらいいのだろう。土屋氏は、笑ってこう付け加えた。
「この話を事業家仲間に話すと、『バカなことをしちゃっているね』と、呆れられますが、私は本気。グローバル化が叫ばれていますが、グローバル化はエリートだけのものではない。だから私は、これを『凡人による凡人のグローバル戦略』と呼んでいます」
■オープンエアの教室から聞こえてくる日本語
土屋氏がつくったMSM国際女学院は、ヤンゴン市内から北に約60キロも離れたところにあった。ヤンゴン市内からヤンゴン国際空港まで約27キロあるから、その倍以上である。まさに、田舎の中のなにもない場所、広大な田園地帯のなかにポツンと存在していた。10月22日の昼、私を含めた日本と現地からの招聘客50人ほどは、ここに、3時間もかけて汗だくになって到着した。
ミャンマーは改革開放に転じてから、まだ3年半ほどしか経っていない。すべてのインフラが未整備で、道路状況も悪く、道路はいつも渋滞。その渋滞する幹線道路をやっと抜けて舗装のない田舎道に入ったところで、私たちを乗せたバスは立ち往生。道路の凹凸がひどく、バスはこれ以上進めないということだった。それで急遽、近隣から調達したミニバンや軽トラックに乗り換え、荷台にすし詰め状態となって学校に行き着いたのである。
新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。
投稿更新日:2015年10月27日
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