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【新興ASIAウォッチ/第73回】深刻さ増す東南アジアの海洋汚染

バリ島の海はプラスチックゴミの宝庫

いま、東南アジアで海洋汚染が深刻さを増している。東南アジアと言えば、日本人旅行者に人気のビーチリゾートがいくつもある。そんなビーチリゾートの海が、いまや大量のプラスチックゴミで汚染され、スキューバダイビングもサーフィンも、ビーチでの遊泳すらも楽しめない状況になっている。

例えばバリ島。汚染がひどいのは、通称「マンタの海」と呼ばれる、バリ島の東に浮かぶ離島ペニダ島のダイビングスポット。観光ダイバーが驚くのは、海面に浮かぶペットボトル、レジ袋、菓子袋、透明カップなどのプラスチックゴミの数々。もちろん、そのゴミをかき分けて潜れば、熱帯のカラフルな魚の群れやマンタに出会うことができるが、気分は最悪だ。

また、バリ島と言えばサーフィン。有名なクタビーチに行くと、ビーチには流れ着いた大量のプラスチックゴミがあふれている。ブルドーザーが入って除去してはいるが、連日流れ着くので、いくら除去しても追いつかない。しかも、海にも大量に漂っていて、サーファーはその間をぬって波に乗る。しかし、波しぶきとともにペットボトルが宙に舞うのだから、とてもではないサーフィンをしている気分になれない。

プラスチックの生産量は劇的に増えた

いったいなぜ、こんなことになってしまったのだろうか? それはもちろん、私たちが大量にプラスチックを消費するようになったからだ。すでに、世界の海には1億5000万トンものプラスチックゴミがあり、年間800万トンずつ増えていると言われている。

世界のプラスチックの年間生産量は、過去50年間で20倍に拡大。産業別の生産量では、容器、包装、袋などのパッケージが36%ともっとも多く、建設用16%、繊維用14%となっている。このうち、リサイクルに回るのは10%ほどで、多くがゴミとして廃棄される。とくに、ペットボトルやレジ袋、透明カップやストローなど「使い捨て」になることが多いパッケージ用のプラスチックが、大量のプラスチックゴミとなり、海に漂っている。

日本でも、プラスチックゴミは深刻な問題となっている。日本沿岸で回収された漂着ごみは年間約3万トンから5万トンにも及び、そのうちプラスチックは全体の7割に達している。地点によっては、9割に達するところがある。

より深刻なのはマイクロプラスチック

海に流れ込んだプラスチックゴミは、海流に乗り海洋を漂う。そして、一部は海底に沈み込む。プラスチックゴミの中でも、最悪とされるのが、大きさが5mm以下のマイクロプラスチックだ。これは、最初から歯磨き粉などに混ぜる小さなプラスチック粒子(マイクロビーズ)として使用するために製造されたものが下水道を通じて海に放出されたものや、海岸に打ち寄せられたプラスチックゴミが、紫外線や打ち寄せる波の影響を受けて長い年月をかけて分解されるなどしてつくられたものだ。

マイクロプラスチックは、通常では目に見えない。じつは、日本近海はマイクロプラスチックのホットスポットと言われ、世界平均の27倍ものマイクロプラスチックが漂っている。

マイクロプラスチックは、それを食べた動物プランクトンを魚が食べ、さらにその魚をクジラやサメなどが食べ、そうした食物連鎖の過程で有害物質の濃度が高くなり、生態系に悪影響を及ぼす。またレジ袋などのプラスチックゴミも、たとえばウミガメが、餌のクラゲと間違えて飲み込んでしまい、腸閉塞で死んでしまったりする。

なぜ東南アジア諸国は大量にゴミを出すのか?

海洋プラスチックごみの排出国の「不名誉なランキング」が公表されている。ダントツの1位は中国、2位はインドネシア、3位はフィリピン、4位はベトナムとなっていて、海に接する東南アジアの国々はみな上位にランクされている。

なぜ、東南アジアの国々が多いのだろうか?それは、日本などから「廃プラスチック」を輸入しているからだ。中国がダントツで1位なのは、昨年まで輸入していたからである。しかし、中国はこれを禁止した。その結果、「廃プラ」は、現在規制の緩い東南アジア諸国に殺到することになった。とくに、インドネシアは、2018年に前年比で141%も増えた。

もう一つ、東南アジア諸国がプラスチッククゴミを大量に出す原因は、その生活スタイルにある。かつて、東南アジアの国々では、食器やコップはココナッツ、包み紙はバナナの葉っぱなど、自然のものを使っていた。だから、これらのものはゴミになったとき、そのまま川や海に投棄された。それがいまや、器も包み紙もみなプラスチックになったが、伝統的な生活スタイルは変わっていない。生活ゴミとして、みな投棄されてしまっている。

インドネシア、ベトナムで始まった削減規制

今年の6月、バンコクでASEAN(東南アジア諸国連合)の首脳会議が開かれた際、海洋ゴミ問題は主要なテーマになった。その結果、首脳宣言に、各国が海洋ゴミの削減に取り組むことが明記された。これを受けて、インドネシアのジョコ大統領は、6月25日、廃プラの輸入を禁止する方針を明らかにした。

すでに、インドネシアではスーパーマーケットや店舗でのレジ袋の使用を徐々に規制しているが、今後、これを強化していくという。インドネシア政府は、2025年までに海洋ゴミを70%削減することを掲げている。しかし、プラスチックゴミの削減は容易なことではない。

ベトナムも規制に乗り出した。世界自然遺産ハロン湾も海洋ゴミに悩まされていて、業を煮やした遺産管理委員会は、観光船事業者15社との間で、この8月1日からプラスチック製品を試験的に廃止した。15社は、ペットボトル、コップ、ストロー、袋のほか、ウェットティッシュを廃止することになった。しかし、これをどう切り替えていくのかは、まだ試行錯誤だ。

ペットボトルをなくして、通常のコップで観光客に飲み物をサービスするのは、大変な手間がかかる。それでも、規制をしなければ、世界遺産の海はゴミの海になってしまい、クルーズが楽しめなくなる。

東南アジアを旅する際はマイボトルを

いまや世界中で、海洋ゴミ、プラスチックゴミの削減運動が始まっている。レジ袋はもとより、ストローやコップもプラスチック製のものを使用しない運動が展開されるようになった。しかし、いくら規制しても、プラスチックゴミは出る。そのため、今後は、個人個人ができるだけプラスチックゴミを出さないように心がけるしかない。

日本は1人当たりのパッケージ用プラスチックゴミの発生量が、アメリカに次いで世界で2番目に多い。また、国内で1年間に使用されるレジ袋は約400億枚と推計され、これは、1人当たり1日約1枚のペースでレジ袋を消費していることになる。そこで、まずはエコバックを持ち歩く。マイボトルを使うなどをして、なんとかゴミの発生を抑えることが肝要になる。

これは、東南アジアを旅する際も同じだ。もう今後は、リゾートでペットボトルで飲料を飲むなどということは、極力やめるようにしたい。なるべくマイボトルを持っていくようにしたらどうだろうか。日本は、環境汚染対策、環境汚染ビジネスでは先進国である。ならば、東南アジアを環境汚染から守っていくのが、私たち日本人の務めだろう。

新興ASIAウォッチ/著者:山田順

新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。

山田順(やまだ じゅん)

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。

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投稿更新日:2019年08月26日


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