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【新興ASIAウォッチ/第46回】シンガポールの「昭南ギャラリー」事件

「ブキティマ自然保護区」の丘に登ってみた

この2月、シンガポールで日本に関する大きなニュースがあったが、日本ではほとんどというか、まったく報道されなかったので、ここで取り上げてみることにしたい。

数年前、シンガポールに家族で滞在していたときのこと、娘が「明日の朝は山にハイクに行く」と突然、言い出した。「運動しないと体がなまる」というので、早起きさせられ、私も家内とともにその「山」とやらに登ることになった。山と言っても小高い丘。高さは100メートルもない。全体が「ブキティマ自然保護区」(Bukit Timah Nature Reserve)という自然公園になっていて、入り口には公園事務所とボードがあった。

そのボードには「サルが出るので注意」という掲示があった。「なに、サルがいるのか。それは楽しみだ」と思いながら、熱帯雨林の森の中のトレイルを丘の上まで登った。結局、サルは出なかったが、丘の上からはシンガポールの街が遠くに見渡せた。あたりには、早朝の清々しい空気。それを思い切り吸って丘を下りた。

というわけで、今回のニュースというのが、このブキティマの丘とその麓にある記念博物館「MEMORIES AT OLD FORD FACTORY」が舞台なのである。

麓にあるフォードの工場で英国軍は降伏した

「MEMORIES AT OLD FORD FACTORY」と言っても、誰もピンと来ないだろう。なにしろ日本語にしたら「旧フォード工場記念館」で、これだと昔のフォードの工場跡を記念したものだと思ってしまうからだ。しかし、記念しているものは自動車工場ではない。ここで、75年前にあった歴史的な出来事と、その後の3年半の歴史である。

1942年2月半ば、山下奉文大将率いる帝国陸軍第25軍は、ブキティマの丘で英国軍連合部隊と激しい戦いを繰り広げた。そして、2月15日、ついに英国軍は降伏し、丘の麓にあるフォードの工場で、降伏文書へのサイン式典が行われたのである。このとき、山下大将がパーシバル中将に「イエスかノーか」と迫ったというのは、有名な歴史のエピソードだ。そのため、戦後、シンガポール政府はこの工場跡地に記念館を建て、当時の記録を残すことにしたのである。

ちなみに、私たち家族が登ったブキティマの丘には、日本占領時代には、戦死した日本軍兵士の慰霊塔と、同じく英国側の戦死者を弔う高さ約3メートルの木造の十字架が建てられたという。そこで、私は丘に登った次いでに、その跡を探してみたが、残っていたのは参道とそこに続く階段だけだった。連合軍の反撃でシンガポールを放棄することになったとき、すべてが取り壊されたのだという。

展示名「昭南ギャラリー」に市民から抗議

日本でほとんど無視されたニュースは、かろうじてAFP通信だけが以下のように伝えていた。
【2月19日 AFP】シンガポールが第2次世界大戦中に日本に占領されていた歴史を紹介する展示会の名称が、国民の抗議を受けて変更されることになった。当時英国の植民地だったシンガポールが旧日本軍の進攻で陥落してから75年に当たる15日に始まったこの展示会は、当初「Syonan Gallery: War and Its Legacies」(昭南ギャラリー:戦争とその遺産)という名称だったが、日本が占領したシンガポールにつけた名称「昭南」を使用した点について、親や祖父母の世代を含む大勢の国民から抗議の声が上がった。

⇒参考記事(AFP通信)

2月15日、その日から75年目、「旧フォード工場記念館」は館内改装し、新しい展示をすることになった。その展示会のタイトルが、記事にあるように「Syonan Gallery: War and Its Legacies」(昭南ギャラリー:戦争とその遺産)だった。「昭南」とは、日本が付けたシンガポールの和名だ。1942年2月から3年半、シンガポール市は「昭南市」だったのである。だから、当時の展示にその名をつけたわけだが、これに対して市民からクレームがついたのである。
なぜか?それは、日本占領下の3年半の歴史は、シンガポールにとっては「暗黒の歴史」とされるからだ。

日本統治時代はシンガポールの「暗黒の歴史」

いまとなっては遠い過去の出来事、そして戦争中という非日常の出来事だったとはいえ、ここで、日本軍は華僑の人々を虐殺している。これは「Sook Ching」(粛清)と呼ばれる事件で、犠牲者の数は日本側が確認したのは約5000人、シンガポール政府の推定では約5万人とされている。そのため、日本は1967年に、シンガポール政府に当時の金額で約30億円相当の無償供与の戦後賠償を行っている。ただし、以後、シンガポールが日本に謝罪や賠償を求めたことはない。

故・リー・クアンユー首相は、韓国や中国のように、戦時中の日本の行為を非難して援助を引き出すという政策を取らなかった。あえて、そうした暗い歴史を封印して、自国の努力による繁栄を求めてきた。それでも、やはり、過去の記憶を持っている世代がいる限り、こうした事態は起こる。

この問題に火をつけたのは、現地紙『ザ・ストレーツ・タイムズ』 (The Straits Times)の報道だった。この新聞は政府の機関紙だが、「市民の中にはいい感情を持っていない人間がいる」と伝えるや、すぐに政府が動いた。ヤーコブ・イブラヒム情報通信相は展示開始から2日後の17日に、フェイスブックで「日本占領下で著しい苦痛を味わい、ご家族を亡くされた方々の感情を尊重しなければならない」と陳謝し、展示会の名称を「Surviving the Japanese Occupation: War and its Legacies」(日本の占領を生き延びる:戦争とその遺産)に変更すると表明したのである。

リー・シェンロン首相も「(今回の展示は)非道な日本統治時代にあった私たちの祖先の苦痛と勇気を記録しています。シンガポールが自由だけでなく名前も失うとはなにを意味するのかを伝えています」とし、昭南を使ったのは間違いだとコメントした。

旧フォード工場記念館の展示はフェア

私は、東南アジアで旧日本軍の戦争の跡地に、けっこうよく足を運んでいる。その度に、私たちの先代がなにをやってきたのか?また、それはなぜか?に思いをはせる。そんななかで、もっとも気分が悪くなったのは、中国の南京市の「南京虐殺記念館」である。なぜなら、ここの展示は嘘だらけのプロパガンダだからだ。その点、旧フォード工場記念館の展示は、かなりフェアで、歴史展示としてはありのままを伝えるように心がけている。

いまの若い世代は、もうほとんどがこうした歴史サイトを訪れないだろう。シンガポールに行ったら、やはりマーラインを見て、マリーナベイサンズの天国のプールに行く。そして、中華街やインド人街を歩いて食事をし、さらに、セントーサ島のユニバーサルスタジオやナイトサファリに行けば、もう3泊4日はあっという間に過ぎていく。でも、もし時間があったら、ブキティマの丘に登り、旧フォード工場記念館に行って見たらどうだろう。

行ってほしい「ブキティマ」と「シロソ砦」

現在、シンガポール人の対日感情は、すこぶるいいと思う。私は、シンガポールで、旧世代の人から日本統治時代の苦しい体験や恨みつらみを聞いたことがない。いまや、シンガポールは日本よりはるかに豊かなのだから、そんな昔のことを言う必要もない。日本は、シンガポール人の人気観光地の一つなり、日本からシンガポールへ移住者も増えている。

だからなおさら、ちょっと足を伸ばしてほしい。旧フォード工場記念館は小さな建物だが、その展示は貴重だ。また、ブキティマの丘も登る価値はある。さらに、丘の麓の公園内には、旧マレー鉄道の廃線跡があり、そこが遊歩道になっている。廃線跡を歩くとBUKIT TIMA駅があり、かつての面影がそのまま保存されている。

また、セントーサ島に行ったなら、「シロソ砦」(Fort Siloso)にも立ち寄ってほしい。ここは、英国軍の要塞で、日本占領中は捕虜収容所になっていた。現在は、旧兵舎を使った展示があり、シロソ砦のジオラマやシンガポール陥落のドキュメンタリーの上映などがある。

新興ASIAウォッチ/著者:山田順

新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。

山田順(やまだ じゅん)

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。

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投稿更新日:2017年03月27日


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