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この1月22日、安倍首相は、スイスのダボスで開かれた「世界経済フォーラム(WEF)」(ダボス会議)で基調講演を行い、そのなかで、「日本は女性に輝く機会を与える場でなくてはならない。
2020年までに、指導的地位にいる人の3割を女性にする」と宣言した。一国の首相が、わざわざ世界に向かって「これからは女性を活用していきます」と言うのだから、裏返せば、じつは日本は先進国のなかでは突出して女性の地位が低い国ということになる。
安倍首相が進める「アベノミクス」の柱の一つは、女性活用である。すでに、政府の改革方針には、「経済を持続可能な成長軌道に乗せるため、最大の潜在力である女性の力を最大限発揮させる」と明記されている。
女性の活用自体はいいこと、やるべきことであるのは間違いない。しかし、私の周囲にいる女性たち、とくに娘の世代(20代、30代)は、「いまさらになにを言っているの?」と、この政府方針に冷ややかだ。さらに、企業で男性に伍して働いているキャリアウーマンたちの声は、もっとシビアだ。
「結局、経済がうまくいかないから、私たちにもっと働けと言いたいだけじゃないの」
「そうよね。一見、女性の味方のようなことを言っているけど、女性手帳を配る、3年育児を導入するなんていうのはおせっかいよ」
「日本がダメなのは、日本の男たちがダメになったからでしょ。それを棚に上げて、今度は女に頼ろうとしている。情けない」
「安倍さんのホンネは、女に“もっと子ども産め、そして育てろ、そのうえ働け”でしょう。じつは、これは女性差別じゃないの」
たしかに、政府方針は、私にも「産めよ、育てよ、働けよ」と、男が女に向かって言っているように聞こえる。
そもそも日本は、先進国のなかでは女性の就業率が低い。しかも、約6割の女性が出産を機に退職している。いまだに、女性を男性同様に扱わず、補完労働力としてしか見ていないのだ。さらに、給与面からも冷遇されている。男性と同じ働きをしても、男性の約8割の給与しか支払わない会社が圧倒的に多い。
この結果、経済協力開発機構(OECD)が発表した「雇用アウトルック2013」によれば、日本の女性の25~54歳の平均就業率は、加盟国中24位と低い。OECD加盟国は34カ国だから、日本は「女性差別国家」と言うしかない。
さらに、ずばり女性差別で言うと、「世界男女平等ランキング 」(2013年10月)では、日本はなんと105位である。 135カ国中の105位である。これは、毎年、「世界経済フォーラム」が発表しているもので、ちなみに前年の2012年が101位なので、日本はさらにランキングを落としている。これでは、ダボス会議で安倍首相が「女性を活用します」と宣言をせざるをえなかったのも仕方ないと言えるだろう。
ところが、新アジアを見ると、日本が逆立ちしても勝てない「女性活用大国」がある。アジアでもっとも女性差別がなく、女性の社会進出が盛んな国。それは、フィリピンである。前記した「世界男女平等ランキング 」は、なんとフィリピンは世界第5位なのだ。
このランキングは、女性が社会とどう関わっているかで判断される。経済活動への参加と機会の度合い、 教育 ・政治への関与の度合い、そして健康に暮らせているなどに基づいて総合的に判断される。 とくに、女性の政治への参加が少なかったり、男性との賃金の格差が大きかったりすると、ランキングは落ちる。
ちなみに、世界ランキングを記すと、次のようになっている。1位アイスランド、 2位フィンランド、 3位ノルウェー、 4位スウェーデン……。なんと、5位フィリピンの上は、すべて北欧諸国なのだ。 アジア諸国のランキングは総じて低い。フィリピンの次にランキングに登場するのは、30位代にスリランカとモンゴルだから、フィリピンの高ランキングは特筆に値する(それにしても日本の100位以下は情けなさすぎる)。
私は最近、フィリピンに行っていない。それでも、かつて何度か行ったとき、取材で訪ねた官庁や企業で、役職クラスに女性が多いことに驚いたものだ。実際、マルコス大統領以降、大統領には男性と女性が交互に就いている。しかも、調べてみると、司法長官、最高裁長官など国の要職の多くも女性が占めている。つまり、フィリピンでは「女性の社会参加」だの、「女だてらに」なんて言葉は死語だ。
フィリピン企業の人間は「わが国の企業には男女差別がない」と、胸をはる。日本では「寿退社や育児退社が一般的だ」と言うと、信じられない顔をする。「フィリピンでは、女性に、60日間のマタニティーリーブ(有給出産休暇)が保障されている。妊娠したから会社を辞めるなんてことは絶対にない」と言う。
しかも、フィリピンの女性はよく働く。それも国内ばかりか、世界中で働いている。私の友人に、東京で富裕層向けにメイドサービスのビジネスをやっている人間がいるが、彼の会社が派遣するメイドは、ほとんどがフィリピン人であり、顧客の評判もいい。これは、東京に限らず、世界の大都市でもみな同じ。世界中から、フィリピン女性のメイドは重宝されているのだ。
フィリピンでは、家庭でも実権は女性が握っている。子どもが生まれても、母親やそのきょうだいが子育てに協力するから、仕事を辞めるということはない。また、裕福な家庭では、貧しい家庭出身のメイドやナニーを雇っているから、女性が女性を使って経済が回っているといっても過言ではない。「亭主関白」という言葉があるが、フィリピンではそんなことをすれば、亭主はたちまち家を叩き出されるだろう。つまり、フィリピン家庭は、すべて「かかあ天下」と言っていいのだ。
フィリピン経済の大きな特長は、「外が内を支えている」ことだろう。なにしろ、海外に出て働いているフィリピン人は1000万人にも上るとされている。彼らが国内に還流するマネーは、年間約214億ドル(2012年)で、これが国内の消費を支えている。フィリピンのGDPの7割は消費であるが、この消費を支えるのが出稼ぎ労働者からの送金なのだ。この送金のどれくらいが女性からのものであるかはわからない。
しかし、かつて日本でもフィリピンパブが全盛を極めたことを思えば、半分以上が女性からのものだろう。しかも、そうした送金は銀行を通さないことも多いので、公式統計に表れないケースが多い。仮にこうした送金が公式統計の倍あるとすれば、フィリピン人が海外で稼ぎ出すおカネは、前記した214億ドルの倍として、約430億ドルとなる。これは、なんとフィリピンの国家予算490億ドル(2013年度)に匹敵する。
こうした海外からの送金を受けて、フィリピン経済は、新興アジア諸国のなかでも好調である。2013年半ばから、アメリカの量的緩和の縮小を受けて、新興国経済が減速するなか、フィリピンだけはその影響が最小限になるだろうと言われている。というのは、新興国に行っていたマネーが引き上げられるなか、フィリピンはフィリピン人自身が海外から国内にマネーを還流させているからだ。
オーストラリア・ニュージーランド銀行は、2014年のフィリピン経済の成長率予測を、新興アジア諸国のなかでただ1国引き上げた。同行は、2014年のフィリピンの経済成長を6.9%としている。
フィリピンは昨年11月、超大型台風ハイエン(台風30号)に襲われ、甚大な被害を出した。また、今後も、さらに巨大な天災に襲われる可能性があるとされている。しかし、好調のフィリピン経済は、その衝撃を乗り切れるとみられている。それは、シンガポールや中東諸国などへ出稼ぎに行っているフィリピン人からの送金が、被災地の復興を促進するとされるからだ。
フィリピンはもはや「アジアの病人」ではない。私たちがかつてイメージした、女性が出稼ぎに出ないと成り立たないという貧しい国ではない。製造業も急成長している。最近のマニラは再開発が進み、高級コンドも続々と建設されている。
もし、この記事を読んでいるあなたが投資家なら、投資先は「女性が生き生きとして働いている国」を選ぶべきだ。これは、どんな経済指標よりも信頼がおける。しかも、その国に行けば、実際にご自身の目で確かめられる。この点で言うと、フィリピンの今後の可能性は限りなく大きい。
新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。
投稿更新日:2014年01月27日
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