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半世紀前、初めて訪れたマニラは治安が悪く、行ってはいけない場所も多い「貧困シティ」だった。当時、フィリピンは「アジアの病人」と言われ、女性たちは国を出て、海外で働いて得たカネを国の家族に送金していた。
日本では、そうしたフィリピン女性(ジャパゆきさん)が働く「フィリピンパブ」が全盛で、それにはまった日本の男たちは快楽を求めてマニラ通いをしていた。
しかし、時代は変わった。いまマニラに行くと、トンド地区のスラム街はまだあるものの、中心部はジェントリフィケーションが進み、高層ビルが立ち並ぶモダンシティとなっている。中でも、空軍基地跡地の再開発によって誕生した「ボニファシオ・グローバル・シティ」(BGC)は目を見張るような「近未来都市」だ。私は横浜市民なので、思わず「ここはみなとみらいなのか」と呟いた。
BGCには、高層オフィスビルはもとより、高級コンド、各国の大使館もある。インターナショナルスクールも日本人学校もあり、外国人駐在員が多く住んでいる。まさに、マニラの発展ぶりを感じさせる街である。
マニラには、「リトル・トーキョー」がある。鳥居をくぐると、居酒屋、寿司屋、和食店など、日本の街が現れ、マニラ在住の日本人の憩いと交流の場になっている。
しかし、20年前には、ここはなかった。マニラは、日本企業にとって、まともにビジネスをする地ではなかったからだ。それがいまや、多くの日本の企業が進出している。
最近の注目は、2023年7月にBGCにオープンした大型のショッピングモール 「MITSUKOSHI BGC」。これは、三越伊勢丹ホールディングスのフィリピン進出1号店である。
すでにフィリピンには多くの日本企業が進出しており、その数は約1,500社に達している。セブンイレブン、ダイソー、ニトリ、味の素、キヤノン、KDDI、丸紅、野村ホールディングズ、トヨタ、ホンダ、ユニクロなど。日本での有名企業は、ほぼすべてあると言っていい。それもこれも、フィリピンがここ十数年で確実に経済成長を遂げてきたからである。
昨年(2023年)のフィリピンの経済成長率は5.6%。ASEANの中でトップを記録した。フィリピンの経済成長率は、2020年にコロナ禍で前年比9.5%減と大きく落ち込んだが、2021年に5.7%増とV字回復。以後、2022年は7.6%増となり、2023年も順調に伸びた。まだ、終わっていないが、今年(2024年)も5.0%以上を記録すると予測されている。
とはいえ、経済規模はまだASEAN10ヵ国の中では6位、1人当たりのGNIは同7位と低い。世界銀行が定める所得区分では、まだ「低位中所得国」(1,136~4,465ドル)に分類されている。
2024年7月5日、 フィリピン国家経済開発局(NEDA)が発表したところによると、2023年のフィリピンの1人当たりのGNIは前年比7.1%増の4,230ドルで、過去最高だった。となると、「低位中所得国」 から抜け出して「上位中所得国」(4,466~1万3,845ドル)になる一歩手前まできたことになる。
ただし、マニラ首都圏に限れば、もはや、「低位中所得国」ではない。1万3,845ドルをも突破する中流層が増え、「上位中所得国」からも脱しようとしている。
マニラ首都圏は、フィリピンの政治、経済、文化の中心地で、その面積は東京23区とほぼ同じ広さ(636㎢)で、人口は約1,350万人。強大な消費市場が誕生したと言っていい。
なぜ、フィリピンはここまで経済発展してきたのか?
エコノミスト的視点に立てば、高度成長の原動力は次の2点である。
(1)BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)で、インドに次ぐ世界第2位になったこと。システム開発、ITサポート、コールセンター、バックオフィスなどのアウトソースの最適地として選ばれ、豊富な人材が育った。これは、英語が公用語で、フィリピン人が英語を話せることが大きかった。
(2)世界でも類を見ない労働者の輸出国となり、世界中にいる出稼ぎ労働者からの送金が、国内の旺盛な消費に繋がった。
ASEAN諸国の経済発展のパターンは、それぞれ違う。フィリピンには、タイやマレーシアほどの大規模な輸出産業がない。そのため、海外からの送金が貿易赤字をオフセットし、さらに、国内消費を牽引して、経済が発展したと言える。国内消費主導型の経済なのである。ただし、この2点以上に、重視すべきと思うことがある。
私がフィリピンの経済発展の原動力としてもっとも重視しているのは、「人口ボーナスがあり、若年層人口が多いこと」と「女性の社会進出が進み、大活躍していること」である。
なんと言ってもフィリピンは「若い国」だ。高齢社会の日本とは大きく違う。ASEANのなかでも少子高齢化の兆しが見えるタイなどに比べると、圧倒的に若年層人口が多い。フィリピンの人口の平均年齢は24.1歳で、日本は49.9歳。ダブルスコアである。
しかも、フィリピンの人口は増え続けており、総人口は2023年6月時点で約1.17億人。2030年には1.23億人に増加し、2050年にピークの1.34億人に到達する見通しである。人口構成ピラミッドはきれいな三角形であり、生産年齢人口は増え続ける。つまり、今後も経済発展は約束されていると言えるのだ。
フィリピンに行けば、いや世界どこに行っても実感できるが、フィリピン女性はたくましい。しかも、優秀でよく働く。これは文化的なものなかどうかは私にはわからない。理由はともかくとして、「女性の強さ」はフィリピンの最大の特徴と言っていい。
そのため、フィリピンでは、企業や官庁の管理職の多くを女性が占めている。日本から行った駐在員のトップが、取引先相手に女性の幹部が出てきたので驚いたという話はよく聞く。フィリピンの女性管理職の割合はなんと6割に達し、日本の1割程度に比べると圧倒的に多い。すでにフィリピンでは故コラソン・アキノ大統領、元アロヨ大統領と、2人の女性大統領が誕生している。
この女性がたくましくて優秀だということが、フィリピン経済を牽引していると私は思っている。世界的に見て、女性の社会進出が進んでいない国は、経済発展を遂げていない。日本が「失われた30年」を続けている一因も、ここにあるのではと私は思っている。
世界経済フォーラム(WEF)「ジェンダー・ギャップ指数」(2024年版)で、フィリピンは調査対象146ヵ国中25位。東南アジアでトップである。日本は、なんと118位。もちろん、G7で最下位であり、韓国(94位)や中国(106位)よりも順位が低い。
具体的に経済を引っ張るのは、その国の企業である。米TIME誌の「World’s Best Companies 2024」(世界の優良企業2024)は、1,000社をランクアップしているが、その中にフィリピン企業が13社入っている。これはASEAN諸国では最多だ。
ランキングは、収益性、従業員満足度、環境対策、企業統治などを数値化して、100点満点で順位づけされている。以下、13社を順位順に列記する。
フィリピン最大の財閥アヤラ・コーポレーション(274位)、銀行大手セキュリティバンク(451位)、酒造大手サンミゲル・コーポレーション(502位)、財閥大手SMインベストメンツ(502位)、不動産大手SMプライム・ホールディングス(577位)、外食大手ジョリビー・フーズ(649位)、財閥大手アボイティス・グループ(727位)、小売大手ロビンソンズ・リテール・ホールディングス(775位)、銀行大手チャイナバンク・フィリピン(849位)、財閥大手アライアンス・グローバル・グループ(863位)、通信大手PLDT(897位)、銀行大手メトロバンク(935位)、小売大手ピュアゴールド・プライス・クラブ(997位)。
なお、ASEAN諸国では、シンガポールが11社、インドネシアが5社、マレーシアが4社、タイが4社、ベトナムが0社となっている。
以上、フィリピンの経済発展について述べてきたが、ここまで発展してくると、投資家はさらに投資を進める。その結果、ここ数年、フィリピンの株価、不動産ともに上昇を続けている。どちらも、人口ボーナスと経済発展に連動する以上、今後も優良な投資となるのは間違いない。
フィリピン株は銘柄が300弱と少なく、優良株の選別は比較的簡単。また、国内の上場企業の株式におけるキャピタルゲイン税は免税なため、海外投資家には人気がある。
一方、不動産は、都市開発が進むマニラ首都圏の物件はほぼすべて値上がりしており、海外マネーも多く投下されている。個人投資家が買うコンドミニアムの平均グロス賃貸利回りは年5%を超え、ASEANの主要都市の中でも高水準を維持している。
2025年で、フェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領は就任4年目に入る。就任以来、経済に力を入れ、インフラを整備して雇用を拡大するとともに、FDI(海外直接投資)を確実に増やしてきた。例えば、つい先日(12月18日)、外国人による私有地の借地期間を75年間から99年間に延長するための法案が可決された。
経済発展とともに、フィリピンの格付け会社によるレーティングは上がっている。S&Pは2024年7月に、長期信用格付け見通しを、「ステーブル」(安定的)から「ポジティブ」に引き上げた。
マルコス・ジュニア大統領はドゥテルテ前大統領と違って、親中路線から親米路線に転換、日本とも経済、安全保障分野で協力を強化してきた。このまま日本との友好な関係が続けば、フィリピンは投資家にとってより魅力的な国になるだろう。
2026年、日本とフィリピンは「国交正常化70周年」を迎える。予測では、この年にフィリピンの人口は日本を抜く。マニラは、「マニラ湾に沈む夕陽」が有名。行けば必ず、夕陽を見て一献を傾ける。しかし、今後も夕陽は沈んでも経済が沈むことはないだろう。
新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。
投稿更新日:2024年12月26日
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