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シンガポール観光が大きく変わろうとしている。2年前にセントーサ島にできた遊歩道「セントーサ・センソリースケープ」が、その手始めだ。遊歩道といっても、単なるウォーキングコースではない。ビーチステーションとリゾート・ワールド・セントーサを結ぶ350mのコースは、自然とデジタルが融合した未来の散歩道だ。
訪れるべきなのは、夕暮れ時。明るさが消えていくとともに、「イマジナイト」ライトショーが始まり、鮮やかなプロジェクションと拡張現実(AR)機能がアプリを通じて楽しめる。コース内には、デジタル技術を駆使した6つの感覚庭園があり、どのエリアでも香り・音・光・触感が楽しめるように工夫されている。光のアートを担当したのは、日本のデジタルテクノロジー企業「ワントゥーテン」だ。
シンガポール政府がいま推進しているのが、セントーサ島と隣接するブラニ島を一体化し、この地域を約20年(2045年完了予定)かけて世界有数のリゾート地に刷新する「グレーター・セントーサ・マスタープラン」。
シンガポールはすでに東南アジア有数の観光地、都市型リゾート地だが、さらに一段レベルを引き上げて、来訪客数と観光収入を伸ばしていくというのが、この計画だ。
シンガポール観光といえば、マーライオン、ナイトサファリ、カジノのあるマリーナベイサンズ、そしてセントーサ島にあるユニバーサル・スタジオなどが有名だが、「グレーター・セントーサ・マスタープラン」は、そうした従来型の観光ではなく、ビーチフロントいう自然環境を生かしたクオリティ・ツーリズムの実現を目指している。
グレーター・セントーサ・マスタープランは、次の4つがコンセプトだ。まず、元々コンテナ・ターミナルがあったブラニ島とセントーサ島の間を埋め立て、両島を一体的なデスティネーションとして開発する。ここに、ハイエンドなホテル、大型アトラクション施設、エンターテインメント施設を整備する。
続いて、この開発と並行して、老朽化したモノレール(セントーサ・エクスプレス)などに代わる、新しい自動輸送システム「ピープル・ムーバー」や、交通ハブ「アイランド・ハート」の整備を行う。
さらに、自然と一体型の森林歩道「キャノピーウォーク」を新設する。これは、セントーサ島中心部の丘陵地や森林エリアを結ぶ高架式の森林遊歩道だ。
もちろん、ビーチエリアも開発・整備する。目玉は、シロソ・ビーチにつくられる施設「センソリウム」。環境に配慮した多目的ライフスタイル施設というが、どんな施設になるのだろうか。
なお、セントーサ島では、すでに新施設が続々とオープンしている。マンダイ・レイク地区にした約1万㎡の屋内型自然マルチメディア・没入型施設「エクスプロリア」。マンダイ・ワイルドライフ・リザーブ内に登場した、アジア初の冒険型パーク「レインフォレスト・ワイルド・アジア」。生命科学と技術革新の大型複合施設「ジニオ」などだ。
シンガポールの観光客数(来訪者数)は、コロナ禍以前の2019年の水準にまだ戻っていない。今年の統計を見るとクリアしそうだが、世界情勢が不安定なため、まだわからない。ただし、もっとも重要な観光消費額は、すでにコロナ前を大きく超えて過去最高を記録している。
円安で観光客数の伸びばかりが注目される日本と違って、シンガポールは「量より質」への転換が進み、すでに、中・上流層の観光地にシフトしている。その内訳を見ると、はっきりしているのは、滞在日数の長期化だ。来訪者1人当たりの平均滞在日数がコロナ禍以前と比べて明らかに伸びている。
また、1人当たりの観光消費額が2019年比で約24%も増加している。消費支出の上位は、ダイニング(食)、エンターテインメント、F1グランプリや海外アーティストのコンサートなど、体験型支出が主流になっている。
セントーサ島の新しい観光開発の根底にあるのは、いま、世界で主流となってきた「クオリティ・ツーリズム」(質の高い観光)である。単に訪れる観光客の「人数(量)」を増やすのではなく、旅行者の「滞在の質」や「消費額(経済効果)」、そして地域社会や環境への配慮といった「クオリティ」を最重視する観光振興のあり方だ。
もともとシンガポールは、オフショアとして富裕層の誘致で発展してきただけに、クオリティを目指すのは自然である。低価格な団体ツアーなどで大量の観光客を呼び寄せる「マス・ツーリズム」と対極にあるのが、「クオリティ・ツーリズム」である。
クオリティ・ツーリズムでは、質の高い体験を提供することが最大の目的となる。その土地でしか味わえない文化、伝統、アート、グルメ、ラグジュアリー滞在、アミューズメント、特別イベントなど、旅行者が「高くてもお金を払いたい」と思える特別な価値を提供する。
こうすると、現在、日本で大きな問題となっているオーバーツーリズムによる、住民生活と自然環境の破壊は防げる。シンガポールは、国土が東京23区ほどと非常に狭く、ここに多くの観光客を受け入れるのには限界がある。
すでに、富裕層誘致に成功したため、世界の都市と比べて、5つ星のラグジュアリーホテル数は群を抜いて多い。カジノも成功し、F1も誘致したとあれば、あとは、いかに滞在型のクオリティを高めるかだ。そういう意味で言うと、シンガポールはクオリティ・ツーリズムの最適地である。
シンガポールでは、スマートシティ化も急速に進んでいる。狭い国土で、もともとクルマの所有を制限してきたことで、EV転換、自動運転ロボタクシーなどのサービスが受け入れやすい土壌がある。すでにEV化は急速に進み、2026年上半期(1〜6月)における新規登録乗用車のEV比率は62.4%に達している。
自動運転ロボタクシーも一部で試行・運用が始まり、2028年にはWaymoなどによるサービスが完全実施される段取りになっている。ロボット導入も進み、従業員1万人あたりのロボット密度は世界2位である。
シンガポールの大きな弱点は、電力供給で、電力の9割超を天然ガスによる火力発電に頼っていることだ。これは、国土の狭さによるもので、再エネ電力の輸入を進めるしかない状況だ。
シンガポールに行くたびに思うのは、日本の都市や観光地との大きな違いだ。日本の周回遅れをつくづく感じる。シンガポールを真似た万博跡地のカジノ建設はどうなったのだろうか?
いずれにしても、シンガポールは日本の一般観光客が行くデスティネーションでなくなりつつある。
新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。
投稿更新日:2026年09月28日
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