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【新興ASIAウォッチ/第156回】温暖化で水没する2大メガシティ

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【新興ASIAウォッチ/第156回】温暖化で水没する2大メガシティ

東京より暑いバンコク、問題は高温より水没

今年もまた世界中で、灼熱の夏となっている。日本では最高気温が40℃を超えることが度々起こり、ゲリラ豪雨も頻繁にやってくる。まさに、熱帯である。そんなおり、熱帯のタイから帰国した知人が、「東京はバンコクより暑い」と嘆いた。

言われてみればそのとおりで、バンコクでは最高気温が35℃を超えることはほとんどない。午後はスコールが来るので、その後は気温が下がる。また、夜は東京の熱帯夜ほど暑くない。さらに、コンクリートやアスファルトが熱を放射するヒートアイランド現象も、東京より軽い。

しかし、バンコクは気温上昇より大きな問題がある。温暖化の進行による「水没危機」だ。温暖化は海面上昇を招き、大潮のときにはタイ湾からの高潮がチャオプラヤ川の水位を大きく押し上げる。また、雨季に大雨が降ると水位が上がり、低いところは冠水・洪水のリスクが高まる。

すでにバンコクは度々、冠水・洪水被害に見舞われている。じつは、地球温暖化は高温リスクもさることながら、水没リスクも大問題なのである。

水没リスク2、3番手はバンコク、ホーチミン

東南アジアの主要都市は、ほぼどこも海か川に面している。よって、温暖化が進めば水没する可能性が高まる。水没リスク一番手は、インドネシアのジャカルタだ。

ジャカルタは「世界一早く水没する都市」とされ、これまで何度も洪水に見舞われてきた。2021年12月の大洪水では、一部市街地がなんと2.7mも水中に沈んだ。そのため、インドネシア政府は首都移転を決めた。

まさに英断で、移転地はボルネオのジャングルを切り開いたヌサンタラ。現在、新首都ヌサンタラの建設は順調に進んでいる。

そこで、今回のこの原稿では、水没リスクの2番手、3番手に挙げられるバンコク、ホーチミンを取り上げてみたい。すでに世界の富裕層は、快適に過ごせる「気候オアシス」を求めて「気候移住」を始めており、それに伴い不動産価格も温暖化リスクを織り込むようになっている。

したがって、この視点も入れて、東南アジアの2大ビッグシティ、バンコクとホーチミンを見てみたい。

水害に弱い運河が張り巡らされた水上都市

バンコクでの宿泊には、「ミレニアムヒルトン」「マンダリンオリエンタル」「シャングリア」がオススメだ。いずれもチャオプラヤ川沿いにあり、とくにマンダリンオリエンタルのテラスで、川辺の景色を眺めながら味合うタイ料理は格別である。しかし、近い将来、これらのホテルが水没してしまう可能性があると言われている。

ただ、いずれのホテルも、2011年のバンコク大洪水を教訓に、防潮・排水対策を強化しており、「心配はない」と答える。タイ政府は、バンコク首都圏を中心に、「気候変動マスタープラン」を策定し、2050年カーボンニュートラルを目指している。その一環として、リアルタイムの水位・排水管理、排水インフラの強化などを行っている。

しかし、バンコクはチャオプラヤ川を中心に運河が張り巡らされた水上都市であり、いくらインフラを整えようと、水害には弱い。観光で人気の水上マーケット、市民の足の水上バスも、今後の大規模な気候変動(豪雨、台風、水面上昇)に対応できるかは未知数だ。

中心部の「リバービュー・ブランド」が人気

バンコクの不動産は2極化している。都心の一等地、スクンビット、シーロム、サトーンといった地区の高級コンドミニアムが年率3、4%のペースで値上がりする一方、周辺地区では売れ残りが発生し、価格が下がっている。

値上がり物件の中では、「リバービュー・ブランド」とされる川沿いの物件の人気は高い。富裕層や外国人による投資が続いている。つまり、水没リスクはほぼ考慮されていない。

日本人の駐在員、居住者が多いのは、スクンビット地区、シーロム地区だが、温暖化リスクを見込んだ取引はいまのところ起こっていない。バンコクでいま問題視されているのは、厳しくしくなる一方の住宅ローンの審査と未利用地などに対する土地建物税の増税である。

ただし、不動産取引は流動性が保たれる限り、10年先ぐらいの近未来しか見ていない。2050年、いまから四半世紀後、温暖化によってバンコクがどうなっているかは、温暖化の進行具合によるとしか言いようがないが、いまより悪化しているのは間違いないだろう。私見を言わせてもらえば、バンコク不動産への長期視点に基づく投資には疑問符が付く。

ホーチミンの問題はメコンデルタ全体の水没危機

ボーチミン(サイゴン)で泊まるなら、タオディエン地区(2区)のサイゴン川沿いにあるブテックホテルの「ヴィラ・ソング・サイゴンミア」と「サイゴンミア」だろう。川沿いのテラスで、リゾート気分を満喫できる。

ここもまた、バンコクのチャオプラヤ川沿いと同じように、水没してしまう可能性がある。実際のところ、こちらの方がはるかに可能性が高い。2025年10月のホーチミン大洪水では、水深が50cmを超える浸水を記録している。

ホーチミンを流れるサイゴン川は、大河メコンとは別の川だが、ホーチミンの水没問題は、メコンデルタ全体の問題と捉えられている。

ホーチミン市は、ビンズオン省およびバリア=ブンタウ省と合併し、現在では面積6700㎢、海岸線300km以上を有する「海洋メガシティ」となった。

懸念される塩害、デルタの住民約630万人の危機

メコンデルタの危機について述べると、水没危機とともに挙げられるのが塩害による農業危機である。満潮時に海水が川へ最大80kmも逆流し、塩分濃度を上昇させて稲を枯らしてしまうのである。すでに塩害の被害は大きく、稲作を諦めてエビ養殖に切り替える農家が増えている。

サイゴン川でも塩分増加の水質変化により、水道水の品質低下、浄水処理コストの上昇という問題が起こっている。メコン川水域でも同様な問題が起こり、メコンデルタの住民約630万人は、温暖化による気候変動の影響を直接受ける危機にある。

ホーチミン市国家大学の研究チームの報告によると、ホーチミン市では、1990年以降、都市化により自然湿地の90%以上が消失。さらに地下水の過剰採取により、地盤は年間平均約8mm沈下しているという。さらに、高潮の影響で、河川水位も年間0.4〜0.9cm上昇している。

温暖化・気候変動抜きにして投資してはいけない

ベトナムはいまやASEANナンバーワンの経済成長を誇っている。その結果、ホーチミンの不動産も値上がりを続けている。値上がりが顕著なのは、1区のトゥティエムとトゥドゥック市(2021年1月に旧2区・9区・トゥドゥック区が統合されて誕生した、ベトナム初の中央直轄市。前記したタオディエン地区もここに含まれる)。

この地区は、現在、ホーチミンの新都心として大規模開発が進む人気エリアだ。ただ、インフラ整備の遅れから、洪水リスクが懸念されている。一部地域では、そのリスクから不動産価格は横ばいだ。

ホーチミンで日本人が多く住む主なエリアは、中心街の1区(レタントン周辺)、落ち着いた住宅街のビンタン区(ファンビッチャン)だが、ここの物件価格は安定している。

水没リスク、水害リスクが考慮され、物件価格に影響しているのは、北部エリア(9区、トゥドゥックの郊外など)と、西部エリア(7区、ビンチャンなど)である。地盤沈下の影響を最も受けやすいとされている。

以上、水没危機にある2大ビッグシティを見てきたが、言えることは、今後は、温暖化・気候変動抜きにして、あらゆる意味で投資してはいけないということ。不動産に関しては、特にそうである。

新興ASIAウォッチ/著者:山田順

新興アジアとは、ASEAN諸国にバングラディシュとインドを加えた地域。現在、世界でもっとも発展している地域で、2050年には世界の中心になっている可能性があります。そんな希望あふれる地域の最新情報、話題を伝えていきます。
※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。

山田順(やまだ じゅん)

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。

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投稿更新日:2026年09月11日


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