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私は近所にあるイタリアン「サイゼリヤ」によく行く。PCを持ち込み、赤ワインと小皿2、3品を頼んで、しばらく居続ける。いつも頼むのは、人気の看板メニュー「ミラノ風ドリア」、300円。圧倒的なコストパフォーマンス(コスパ)である。
アメリカからの留学生を連れて行ったことがあるが、1品、1品の値段を見て目を丸くしていた。
「400円? 2.5ドル?そんな値段のパスタ、あり得ません」「ピザは小さいので驚きましたが、とにかく安い」
苦学生だけに、あまりのコスパの良さに、その後、病みつきになって通い詰めたという。
そんなサイゼリヤはいま、アジア諸国に次々と出店している。「日本一コスパがいいイタリアン」は、中国を手始めに、東南アジアへと事業を拡大させているのだ。この6月4日、これまでイスラム国だから(?)とされてきたマレーシアにも出店した。
サイゼリヤのマレーシア1号店は、首都クアラルンプールにある「イオンモール・タマン・マルリ」内にオープン。ここは、MRT(都市高速鉄道)カジャン線とLRT(軽量軌道交通)アンパン線のマルリ駅に隣接するという最高のロケーション。オープン当初から、行列ができて大盛況となった。
マレーシアでも「コスパの良さ」は、マレー系、中華系、インド系など幅広い層に大歓迎されたのだ。ここでも、看板は 「ミラノ風ドリア」をアレンジした「ボロネーゼドリア」。税込み価格で9.9リンギ(約396円)と、日本と変わらない。マレーシアも高度成長を遂げ、いまは中進国(1人あたりのGDP約1万3,900米ドル)なので、この値段でも十分手頃なのだという。
ただ、「ボロネーゼドリア」が「ミラノ風ドリア」と違う点がある。それは、日本の約3倍の量のチーズを使っていること。マレーシア人は料理にチーズをかけて食べるのを好むというので、増量したのだという。どんなビジネスでも、現地の文化、嗜好に合わせないと成功しない。これは鉄則だ。
マレーシアは、ムスリム人口が6割を超えているので、多民族多文化国家と言っても、ほぼイスラム国である。そのため、飲食店に必要なのが「ハラル認証」。イスラム教の戒律にしたがって、豚肉やアルコールなどの禁止成分(ハラム)が含まれていないことが、原材料から製造・流通過程まで保証されなければならない。
サイゼリヤのマレーシア1号店は、アルコール飲料や豚肉を使用したメニューの提供は行わないこととし、ハラル認証の取得を目指した。取得できれば、サイゼリヤとしては初のハラル認証店となる。
ハラル認証が取得できれば、ほかのイスラム国へのビジネス展開が可能になる。東南アジア圏では、インドネシアがイスラム大国である。サイゼリヤのマレーシア法人は、年内に2店舗目をオープンし、ゆくゆくは100店舗を目指すという。
サイゼリヤの海外進出の第一歩は、中国だった。2003年12月に上海に1号店をオープンさせ、海外展開に乗り出した。北京より上海を選んだのは、大都会の雑踏の方がサイゼリヤにはふさわしいと考えたからだという。日本では、千葉県市川市の本八幡(もとやわた)から出発したので、この選択は頷ける。
しかし、上海の中国1号店はまったく流行らなかった。徐家匯(じょかかい)エリアという繁華街だったにも関わらず、立地の悪さもあったが、やはり値段がネックになった。当時の上海でイタリアンといえば、いわゆる高級店しかなく、それに合わせた値段を設定したのが間違いだった。
そこで、少しずつ値段を下げ、最終的に会長の一声で6割引き、7割引きまで値下げしたところ、一気に客足が伸びた。「行列ができるイタリアン」になったのである。二の足を踏んでいたヤングカップルや子連れファミリーが押しかけるようになったのだ。
サイゼリヤの成功を見て、模倣店が一気に増えた。そこが中国らしいが、セントラルキッチン制を導入してコスパの良さを追求するサイゼリヤの敵ではなかった。サイゼリヤは20店舗まで赤字覚悟で運営し、資金力で勝負に出た。その結果、模倣店は価格競争に耐えられず、次々に撤退した。
徹底したコスパの追求の次は、現地化である。客単価の平均約40元(約960円、1元=約24円)の中で、メニューの改善、現地化を徹底して行なった。特に「食は広州にあり」という広東省での展開では、年に3回メニューの更新を行いながら、オンライン注文が主流の中国で、日本同様に写真入りメニューを各テーブルに用意した。メニューの表紙は評判を呼び、中国のSNSで人気になった。
信じられないかもしれないが、サイゼリヤは海外の方が日本国内よりも利益率が高く、利益額でも国内を凌いでいる。つまり、サイゼリヤは、日本より海外で稼いでいる。海外事業(アジア店舗)の売上高は日本国内の半分程度だが、営業利益は日本国内の2倍以上だという。特に中国は絶好調で、その勢いを持っていまや東南アジアに店舗展開を拡大している。
中国および東南アジア圏では、経済成長に伴って中間層が拡大を続けている。そんな層が、これまでは手が届かなかったイタリアンを、手頃な価格で楽しめるようになったのである。
現在、サイゼリヤの海外店舗数は629店舗。国内は1053店舗だから、このまま海外出店が続けば、いずれ日本の店舗数を上回るだろう。海外店舗のうち、約7割が中国(広東州がもっとも多い)だ。
中国以外では、香港(71店舗)、台湾(21店舗)、シンガポール(32店舗)が多く、ベトナムは昨年、やっとホーチミンに1号店を出した。ただ、なぜかタイには1店舗もない。
タイ、バンコクになぜサイゼリヤがないのか考えたことがある。それは、ひとつにはFC(フランチャイズ)展開をせず独資にこだわる出店方針があるからだが、もうひとつはタイではコスパでは勝負できないことにあるのではないかと思う。
バンコクは、外食激戦地である。タイ人はほとんど内食せず、外で食べるのが普通。そのため、格安フードコート、ストリートフードが発達し、「コスパのいいイタリアン」では通用しそうもない。そう判断してのことと思われる。
そのため、シンガポールからベトナム、マレーシアへと展開し、次はインドネシア、フィリピンを目指すという。ただ、その前にオーストラリア進出も決め、現在、1号店の準備に入っているという。
長く続いたデフレ不況で、日本の外食産業は洗練された。その結果、吉野家、CoCo壱番屋、丸亀製麺、味千ラーメンなどが海外で成功。サイゼリヤも、いま同じ道を歩んでいる。目標は、海外1,000店舗だという。
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※本コンテンツ「新興ASIAウォッチ」は弊社Webサイト用に特別寄稿して頂いたものとなります。
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社ペーパーバックス』を創刊し、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。
著書にベストセラーとなった「資産フライト」、「出版・新聞 絶望未来」などがある。
投稿更新日:2026年06月30日
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